ちからを持っていれば、なにかを変えられるかもしれない。
誰しも夢想することがあるのではないだろうか?
けれどもそんな力(ギフト)を、神から授かったとして、それで世界が救えるのだろうか。
この作品の登場人物は、さまざまなギフトを持っている。
それは、癒やしの力であったり、戦闘能力であったり、決断力、行動力、忠義心……さまざまな形をしている。
そんな力を持った人々がさまざまに努力し、思い悩んでいるけれども、世界は変わらない。そういう話である。
変わらないことに業を煮やして、思い詰めた果てに、悲劇が起きたりもする。
そして本作、最大のギフトの持ち主は、一度、その悲劇に巻き込まれかけ、苦しい決断をして以降、世間からは一歩引いた暮らしをしている。
上手くいかないようにみえたさまざまなことが、あることをきっかけに動き出す。すべての「ギフト」が重なり合って、世界をちょっと変えていく。
そのきっかけは、結局、「ひとはひとりでは生きていけない」。当たり前のようでいて、悟るのは難しい結論のあたり、しみじみとよい話です。
しかし、本作でもっとも鮮烈な印象を残すであろうキャラクター、作中一のナイスガイ、マンドラゴラのジーク……彼だけは特別である。
たったひとりで、世界を何度も救っている。
場の重たい空気とか、沈んでいきそうになる哀しい気持ちとか……自分の力を持て余して、思い詰めたひとりの娘の魂とか。
一年のうち数ヶ月の間、完全に実りを得られない「灰枯」と植物の成長が望める「百花」の季節を繰り返す国、フリーゼ。その国の侍従長の子供であるレーダは何やら不穏な噂を聞きつけて、弟を連れて王宮から彼らだけで逃れます。
その彼らが辿り着いた常に灰枯の季節のような、すべてが枯れ尽くした森。そこで彼らが出会ったのは、なんだかやたらとご機嫌な叫ぶ——というよりよくしゃべるマンドラゴラと、恐ろしい魔女のゾルマでした。
やんちゃで独善的にも見えるレーダと彼女に振り回される弟のアレックス。子供らしい無鉄砲さにどきどきしつつ、丁寧に描かれる魔女との生活、次第に明らかになる王宮と彼らの事情、そしてゾルマと彼女のしもべたちの秘密にどんどん惹き込まれてあっという間に読みきってしまいました。
少年少女のやんちゃな冒険と成長譚であり、権謀術数渦巻くシリアスな物語でもあり、けれど最後はゾルマが圧倒的に吹き飛ばす、爽快でわくわくするファンタジーでした。
個人的にはジークがとっても可愛いのと、エーミールがたいへん素敵な無精髭だったので、彼の過去のお話をもっと読んでみたいなあと思ったり。
ファンタジーが好きな方に、とくに大変おすすめです!