赤毛組合へようこそ

 その後。

 すぐに木森こもり先生は転勤てんきんとなった。本人の希望きぼうとのことらしい。

 無名クラブのオープンチャットは消えた。鮎村あゆむらさんは残念ざんねんがっていたが――また新しい謎ときゲームを見つけたようだ。「ともあれ、謎とき中には周りに気をくばるように」となぎちゃんが保護者ほごしゃぶるので、鮎村あゆむらさんは苦笑くしょうしていた。


 すべてを知るのはぼくとなぎちゃんだけだ。


「ところでなぎちゃん、一つわすれてないかな」

「なにかね」

「ホームズだよ。おすすめの短編を教えてくれるっていったじゃないか」


 すると、なぎちゃんは『シャーロック・ホームズの冒険ぼうけん』を貸してくれた。本を開き、彼のお気に入りというタイトルを見てぼくはおどろいた。

 『赤毛組合』。

 そういえば――無名クラブの解散を知った鮎村あゆむらさんが「なんだか『赤毛組合』みたい」と言っていたのが、印象に残っていたのだ。


 彼はうそぶく。

「すべての犯罪には理由が存在する。謎ときのためにつくられた巧緻こうちなる謎よりも――それが稚拙ちせつきわまる工作にすぎないとしても、けっしてとかれたくはないと信じた人間犯罪がおりなす謎にこそ、私がとくべき価値かちがあるのだ」


<了>

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無名クラブへようこそ 秋野てくと @Arcright101

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