スイセン

 二人の歌声が森に響く。多くのアーティストが参加する野外フェスでも、観客の歓声がひときわ大きい。


 中学を卒業した二人は、本格的に音楽活動を始めた。ナルキがエイコにメイクのテクニックを教え、エイコがナルキに歌い方を教えた。二人とも堂々と顔を出し、ネットの中だけでなく、ライブハウスや路上などのリアルでも活動を始めた。


 最初は面白半分に見ていた客たちも、次第に二人の歌声の虜となっていった。


 ナルキは未だに自分に恋をしている。そして、同じようにエイコにも恋をしている。

 エイコは今でもナルキに恋をしている。そして、以前よりも自分のことを好きになっている。


 古のナルキッソスにはエコーの声は届かず、ナルキッソスは湖に沈み、寂しく咲くスイセンの傍らで、森にはエコーの声だけが残った。


 だが、ナルキにはエイコの声が届いた。そして、二人は手を取り合って、一緒に未来への道を歩んでいる。


 森の木々の間を、二人の歌声が重なって、こだまする。


 二人組ユニット『スイセン』の歌声が。


―了-

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ナルキとエイコ 明弓ヒロ(AKARI hiro) @hiro1969

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