いきかたり
塩砂糖
いきかたり
まあ、別にそんな面白い話でもないんですけどね。何年も前の話ですし。
大学2年生の頃に友人数名と肝試しに行ったんですよ。え? いや、そうだったら華があってもっと楽しかったんでしょうけど、生憎と男だけでした。
大学に入ってから知り合って、そこからよく遊ぶようになった友人2人と、ですね。
怪談とかオカルトとか、その手のものは昔から好きだったんですよ。だってなんか、ロマンがあるじゃないですか。最近あまりやらなくなっちゃいましたけど、テレビでやってた心霊映像特集とか、好きでよく見てました。作り物なんだろうなぁとは思って見てましたけど、そんなこと言ったらホラー映画だって作り物ですからね。面白さに本物か偽物かは関係ないと思います。そりゃ、同じ面白さなら本物の方が良いんでしょうけど。
あ、すいません、話が逸れて。
えーっと、そうそう、友人2人と肝試しに行ったんですよ。
有名な心霊スポットってわけでもなかったんじゃないかな。ネットで検索しても全然出てこなかったし。友人の、仮にAとしときますけど、Aが大学の先輩から教えて貰った場所だとかで。
僕含め3人とも、心霊、怪談の類は好きだったんですけど、心霊スポットってのには行ったことがなくて。
怖かったというか、いえ、まあ、怖かったんですね。いや、幽霊が、じゃないですよ?
その手の場所って、ちょっと道踏み外しちゃってるような人たちの溜まり場になってることとか、良くあるじゃないですか。そういう人たちに絡まれるのも嫌だったんで。
ただ、Aが先輩から聞いた場所って、さっきも言ったようにネットで検索しても出てこないようなところで。なんかちょっと薄気味悪いとか、その程度の地元でしか知られてないようなところなのかなって。
3人とも心霊スポット初心者だったんで、最初に行く場所としてはちょうど良いんじゃない? って話してたら、Aがその場所に関わる怖い話があるんだけど、って話し始めたんですよ。
一応そういう曰くみたいなものはあるんだなぁって思いながら聞いてて。
いや、話自体は全然普通というか、普通すぎて今どき誰も話さないような怪談というか。
その心霊スポットってボロボロになって誰も住んでない民家なんですけど、そこに住んでた人の霊が出る、みたいな。そしてこの話を聞くと呪い殺されるっていう。ね? ありきたりでしょう?
昔良く流行りましたよね。洒落怖、とかいって。聞いたら呪われる系の話。その手の怪談と同じで、別にこの話も本当に呪われるわけじゃないですよ。怖さを演出するためのスパイスです。まあ、もう使われすぎてスパイスにもなってないですけど。
それに、本当に呪い殺されるんなら、僕だってもう死んでるはずですしね。何年も前の話なんですから。
ただ、ちょっと変な話もありましたね。
いや、なんでもその民家に関する話は、その民家の中じゃないと話してはいけないらしいんです。
っていう話を僕はAから大学で聞いてるんで、何の意味があるんだっていう設定なんですけど。Aも先輩から大学でこの話を聞いたみたいで。ホント無意味ですよね、これ。
僕も今、ここで話しちゃってるわけですし。
そんな小学生が作ったような怪談だったんですけど、取り敢えずそこに行こうってなって。
車の免許を持ってるのが僕しかいなかったんで、駅に集合してから僕の車でその民家まで向かったんですよ。
集合場所の駅から車で20分ぐらいだったかな。その辺りって田舎というか、まあ本当に田舎の人からしたら田舎でもなんでもないんでしょうけど、少なくとも栄えて発展してるようなところではなくて。
ちょこちょこ住宅が建ってて、あとはスーパーぐらいしかない、みたいな場所だったんですよ。まあ、土地が余ってるから作ったんだろうなっていう大型商業施設もあったりして、不便ってことはなさそうなんですけど。
大通りから外れて、林みたいなところに入っていって、大して舗装もされてない道を進んだずっと先に、目的地の民家はありました。
まぁ、ボロボロでしたね。木造だったんですけど、ホームレスも住まなそうな感じで。
持ってきた懐中電灯で照らしながら、気を付けて中に入ってみたんですよ。まあ、不法侵入ですけどね。でもそんなことをここまできて気にするような奴は誰もいませんでした。
民家の中は、違和感というか、はっきり言ってしまうと変で。異常、まではいかないかもしれないですけど。
というのも、家具の類が全くないんですよ。いや、引っ越しで全部持っていったってわけでもなく、多分そこには最初から本当に何もなかったんだろうなって。
なんというか、こう。上手く説明できないんですけど、多分、誰かが住むために建てたわけじゃないんだろうなって。
家って、誰かが住むために建てるじゃないですか。でも、それだったらなんでわざわざこんな場所に家を建てたんだろうって。
土地の権利とか、面倒なことは色々あるんでしょうけど、わざわざここに建てる? っていう。ただでさえ周りに何もないのに、そこを更に外れた場所に家を建てる理由って、ないと思うんですよね。
誰かが住むために建てたんだとしても、だったら家具の一つでも残ってて良さそうなのに、それすらなかったので。
仮に住む人が決まらないままこの家を建てたんだとしたら、こんな場所に買い手も決まってない家を建てる理由が分からないんですよね。
まあ、そんなわけで。時間帯も深夜でしたし、その民家の変な雰囲気が気味悪くなって。そろそろ帰ろうかって話になったんですよ。
そこまで大きい民家でもなかったんで、それじゃあ最後に残った部屋だけ覗いて帰ろうって思って、入り口から一番遠い奥の部屋の扉を開けたら。
あ、いや。別に大したことなかったんですよ。お札がたくさん貼ってあった、とかもありませんでしたし。
ただ、その部屋は、他の部屋と違って家具があって。といっても、机と椅子がひとつずつなんですけど。
机の上には紙が一枚置いてあって。なんて書いてあったかなぁ、写真撮ってたはずなんで、ちょっと確認しますね。
えっと、そうそう、全部ひらがなで。
『どうせかわらないでしょ』
って。
何が、変わらない、なんですかね?
それで僕らもなんだか怖くなってきて、近くのカラオケ屋を調べて、朝までそこで時間潰してから帰りました。
本当これだけなんですよ。
僕らの誰かが怪我をしたとか、不幸なことが起きたとかもなく、普通に暮らしてます。
Aは最近結婚したとかって連絡が来ましたね。もう奥さんのお腹の中に子供もいるとかで、結構幸せそうに暮らしてます。
生憎と僕のほうはそういった人とは巡り合えてなくて、結婚願望がないわけじゃないんですけど、中々上手くいきませんよね。って、こんな話興味ないですよね。すみません。
え? ええ。そうです、3人で心霊スポットに行ったんですよ。
Aじゃない、もう一人のことですか。
知りません。
とにかくまあ、この話を聞いたからって何か特別気を付けなきゃいけないとかはないと思います。
なにもかわらないですよ。
最初にも言ったように、もう何年も前の話なんですよ。
もし本当に呪いなんてものがあって、殺されちゃうっていうなら。
僕はもうずっと前に死んでなきゃいけないじゃないですか。
いきかたり 塩砂糖 @shiozatou
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