第3話


 一週間後の土曜日。都内から車で二時間ほど走った河口湖のキャンプ場に私たちはいた。メンバーはきよらさんの幼馴染みの家族ご家族と、私、そして虎次郎さんである。もちろん私たちは身を隠してついてきた。はず?


「虎次郎さん、その格好はなんなんですか?」


「え? 探偵風」


「そうですか……。暑くないですか?」


「平気。クール素材で作ってもらったし、ほら、気温も都会と違うじゃん?」


 虎次郎さんはシャーロックホームズそのものの格好をしてきていた。どうやら執事のタカハシさんに特注で作ってもらったようだ。


――ま、眩しいっ! イケメンがシャーロックホームズのコスプレだなんて!


 正直私はそう思ってしまったけれど、今はそれよりも事件を解決せねば。私と虎次郎さんはきよらさん達とは少し離れたバンガローに荷物をおいた。


――ん? 虎次郎さんと、私は、今日はこのバンガローで一緒に寝るの?! そ、それって!?


 つい事件とは関係のないことを考えてしまった自分に少し驚くも、早々に事件を解決して家に帰ればいいだけだと考えを改めた。


 きよらさんの幼なじみとその家族は、女子と男子に分かれてバンガローに入って行く。その様子を見ていると、きよらさんがいうように、幼馴染みのメンバーはみんな仲が良さそうだと思った。きよらさんもお嬢様言葉ではない話し方をしていて、とてもリラックスしているようだ。


「まじで? それはかなりな確率で付き合えそうじゃん?」


「やっぱ? きよらもそう思う? もうどうしよう。告っちゃおっかな」


「言っちゃうしかなくない? だって、おんなじクラスなんでしょ?」


「へへへ。そうなんだよねぇ。ゆきみたいに私も彼氏、できちゃうかも」


 話の流れからすると、かなえさんは今いるメンバーじゃないクラスメイトと付き合うようだ。幸せそうな顔を見る限り、かなえさんは犯人ではない。指輪を盗む必要がないからだ。同じく一緒に話しているゆきさんも、どうやらここにはいない彼氏がいるようだ。


――で、あれば、男性陣の中に犯人が?!


 男性陣のバンガローは虎次郎さんに見張らせている。私は虎次郎さんのスマホに電話をかけた。程なくして虎次郎さんは電話に出た。


「もっしもーし」


「虎次郎さん、そちら、どうですか?」


「こっち? 今さ、二人と話してたんだけど」


「?!?!??? 」


――それ見張りじゃないからっ!


「でさ、面白いことがわかったんだよね」


「面白い……こと」


「そそ。まぁ、今日の夜をお楽しみにって感じ。じゃあねぇ」


 ブチっと電話は一方的に切られてしまった。


「面白いことって……。そうか、そういうことかっ!」


 私は全てを理解したはず。そして、夜をまった。虎次郎さんはすっかりみんなに馴染んでバーベキューを楽しんでいる。私は身を潜め、怪しい動きが出るタイミングをまった。


――きたっ!


 バーベキューの輪の中からきよらさんが離れた。それを追う人影がひとつ。私は暗がりの中で、二人を追った。木立に隠れ、静かに近づいて行くと、トイレの手前で追いかけていた人影がきよらさんを呼び止める。


「きよら」


「あ、健ちゃんもトイレ?」


「うん、いや、違くて、あの、さ……」


「ん……?」


 暗がりの中、二人の手に持つランタンの明かりだけがぼうっと光っている。その光に照らされて、二人の顔がどことなく赤らんで見えるのは気のせいではないはずだ。


「俺、お前のこと」


「……健ちゃん……」


「俺、ずっと……。ずっと、きよらのことが好きだった。それで、俺、ごめん……」


「もしかして、あの指輪を盗んだのって……」


「俺じゃない……。けど、たけるがそうしようって」


「なんでそんなことっ! 私は健ちゃんからもらったあの指輪が一番大事なんだよ!」


「ごめん。でも、もう幼馴染みとしてじゃなくて、俺のこと見て欲しいんだ!」


「健ちゃん……」


 健さんはゆっくりときよらさんに近づいて、足元にランタンを置いた。そして、手に持っていた小さな指輪らしきものをきよらさんの小指にはめて、もう一つポケットから取り出した指輪を優しく、きよらさんの薬指にはめた。


 私はそこまでだ!と出て行くような野暮な真似はしなかった。なぜならそんなことはもう必要ないからだ。二人はとても恥ずかしそうに手を繋いでいるのが見える。いつの間にか私の隣には虎次郎さんもやってきて、その様子を伺っていた。


「一件落着! さすが名探偵!」


「全く役に立たなかった気しかしないのですが……」


「そんなことないって。だって男子二人、指輪を盗んだものの、今日それを打ち明けるか悩みまくってたって言ってたぜ。あの日、指輪がないって泣いて大騒ぎになったらしくってさ」


「そうなんですか?」


「そそ。だから俺たちがきたことで、ちゃんと告白するって踏ん切りがついたって言ってた」


「それは、私のお手柄じゃなくて、虎次郎さんのお手柄ですね。だって、私皆さんの前には出て行ってないですもん」


「あ、俺、ヒカコちゃんの話してあるから」


「ええ!?」


「名探偵が幼馴染みの淡い初恋を成就させますから大丈夫ですって」


 こうして指輪泥棒事件はあっけなく幕を下ろした。


 私は役に、たったのか?






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名探偵ヒカコと盗まれた指輪の謎 和響 @kazuchiai

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