第6話 動いたらダメなが

「もっ、もしもーし、お兄さん。ウチのマッサージが気持ちよくて、寝ちゃったと?」


「……あっ、起きてたとね。残念」


「うっ、ううん。なんでもないが。残念って言ったのはあれやけん。特に意味はなかったと。ほやから、気にせんといてな? 本当になんとなく言っただけやけんね」


「そっ、それじゃあウチは、背中と肩のマッサージをするちゃね? お兄さんは、アイマスクをしたまま、うつ伏せになれると?」


「ん。そんな感じでいいっちゃね。それじゃあ、失礼するけんね……──きゃっ!」


「うう、お兄さんがいきなり動くけん、お布団で鼻を打ったとね」


「むぅー、お兄さん、なんでいきなり動いたと? ウチ、腰と肩のマッサージをするって言うたとね? ウチがお兄さんのおしりに乗ってるあいだは、動いたらダメなが」


「ん? 乗るなんて聞いてない?」


「そんな驚くことないちゃね。ウチの身長やと横からマッサージするんは無理やけん。お尻に乗るしかないとよ?」


「それにウチな? 今日のために頑張ってダイエット──じゃなかった。ウチはずっと細いっちゃね。ほやからな? お兄さんが潰れることもないとよ?」


「ん。わかればいいけん。それじゃあ、もう1度乗るちゃね? んっしょ……」


「ん。お兄さんのお尻、すっごく乗り心地いいとね。安心してマッサージ出来そうな、いいお尻やちゃ」


「ん? もちろん褒めとるとよ? ウチが好きなお尻をしとるとね。ふふ。ほしたら、まずは腰から始めるちゃね?」


「あー……、お兄さんは、足も腰もガチガチなが。全身が固いとよ?」


「あんな? ウチには分からんこともいっぱいしとると思うと。頑張れるのも、お兄さんのすごいところやと思うけん」


「ほやけどな? 無理したらあかんとよ?」


「疲れたと思ったらな? ウチに言うけん。ウチは、お兄さんのためなら、なんでもするけんね。わかったと?」


「ん。わかればいいちゃね。ほしたら、次は1番酷そうな肩をやるけんね」


「こんな感じでどうやと? 気持ちよかね? って聞かなくても、答えはわかっとるっちゃよ」


「お兄さんの口から気持ちよさそうな声が漏れとるけんね。気付いとると?」


「ほら、ここがいいっとね? ぎゅっぎゅっと押すちゃよ」


「ふふっ。ほやけど、こうして見ると、お兄さんの背中はやっぱり大きいっちゃね。筋肉質でウチとは全然違うけん。なんや、ドキドキすると」


「んー? お兄さん、なに笑っとると? ドキドキするは言い過ぎ? むぅー」


「ほやったら、変わってみるとね? ウチの体、お兄さんがもみもみしてみるけん。そしたらな? お兄さんもドキドキするとよ?」


「……ふふっ。冗談やけん。そう焦らんくてもいいちゃね」


「マッサージはやり過ぎてもダメって書いてあったけん、今日はこんな感じにしとくちゃね」


「言い忘れとったがいけど、マッサージは毎日続けるのがいいらしいけんね。ほやから、明日からも続けるとよ?」


「ん? そこまでせんくていいと? そんなことないちゃよ。お兄さんはいつも頑張っとるけん。疲れは毎日溜まる。そう思わんと?」


「ほやからな? マッサージは毎日するとね。これは決定やけん。お兄さんの意見は聞かんと」


「ほいじゃあ、つぎに行くけんね。お兄さんは、仰向けになって欲しいとね」


「ん。ありがと。大好きやけん」


「ほいでな? そのまま両手と足を開いて、大の字で寝れると?」


「ん。いい感じやちゃね。それで、私がお兄さんの足の間に入って、正面から抱きつくちゃね」


「ふふ。お兄さんの息がウチの首にあたって、くすぐったいと」


「……ん? お兄さん、どうしたと? ウチがしてるみたいに、ウチの体をぎゅっと抱き締めてくれんと?」


「いきなりどうしたもなにもないとよ? 今日は、お兄さんの疲れを癒す日やけんね」


「こうして、ぎゅ~っとしとると、ストレスがすっごく下がるとね。いまはウチが抱きついてるだけやけど、安心せんと?」


「安心する? ん。それなら良かったちゃ」


「ほやけどな? ウチはちょっとだけ不満やよ? お兄さんはウチのことをぎゅってしてくれんと?」


「さすがにそれはダメ?」


「むぅ~、そんなことないちゃね。ウチはお兄さんに、ぎゅってして欲しいけんね」


「お兄さんは、私とぎゅっとするの、イヤやと……?」


「嫌じゃない? ん。それならよかったちゃ。ほやったらな? ウチのこと、ギュッてして欲しいとね」


「強くしても、優しくしてもいいけん。ウチをな? お兄さんの好きなようにしてくれていいとよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る