第2話 特製オムライス

「まずはウチが、ケチャップを逆さまに持つけん。お兄さんは、ウチの手を両手で支えて欲しいん」


「ん? どうしてって、今日はお兄さんの疲れを癒す日やけんね。『疲れ』『癒し』『一覧』で調べたら、オムライスに一緒に絵を書くのがいいって出てきたと」


「ほやからな? 楽しそうやし、お兄さんも気に入ってくれると思ったん。どげんかな? やってくれんと?」


「やってくれる? ん。ありがと。お兄さんのそういうところ、ウチ好きやけんね」


「ふふ。それじゃあ、はじめるちゃね」


「まずは、ケチャップの口を開いてオムライスの上にセットすると。お兄さんは、ウチの手を覆うように支えて欲しいがよ」


「そのまま2人で、オムライスにおっきなハートを書くっちゃね。お兄さんも『萌え萌えキュン♪』って言うとよ?」


「ん? 恥ずかしい? 大丈夫。ウチと一緒なら、きっと楽しいけん。そしたら、はじめるちゃね? せーの、『萌え萌えキュン♪』」


「ん。ふふっ。キレイなハートが書けたっちゃね。お兄さんとはじめての共同作業。楽しいとよ?」


「そしたら、ハートの真ん中をスプーンにのせて。はい、あーん」


「ん? どうしたと? お兄さん、おくち開けてくれんとね?」


「えーっと、あんな? 萌え萌えキュンをしてから、あーんをすると、美味しさが増えるって書いてあったけん。ほいでな? 美味し食べ物は、疲れを吹き飛ばすと」


「それに大丈夫やちゃ。あーんは、最初のひとくちだけでいいけんね。全部するわけやないとよ?」


「それにな? ウチ、お兄さんを近くで見上げながら、あーんてしてみたいと。一生のお願いやけん」


「もしな? お兄さんが、あーんで食べてくれたら。ウチ、お兄さんの言うことなんでも聞くけんね」


「ん? もちろん本気やよ? 本当に、なんでも言うこと聞くちゃね」


「ほやからな? ひとくちだけでいいけん。あーんで食べてくれんと?」


「食べてくれる? ん。そう言ってくれるお兄さん、ウチ、大好きやけん! 愛しとるちゃよ」


「ふふ。照れてるお兄さんも可愛かね。そしたら怒られんうちにいくちゃね? はい、あーん」


「……んっ。ふふっ」


「なんか、こそばゆいっちゃね。でも、幸せやけん。いまのウチ、すっごくドキドキしとると。お兄さん、触ってみると?」


「ふふっ。冗談やけんね。ほんでお味の方は、どげんやったと? 美味しさマシマシで、疲れは減ったと?」


「味はわからなかった? んー、癒しの道は、難しいとね……」


「ん? そう言えば、萌え萌えキュン♪ ってする前に、お兄さんに味見をして貰ってないと。失敗したちゃ……」


「あっ! ウチ、閃いたけん!」


「あんな? ウチなら色々する前の最初の味を知っちょると。お兄さんにあーんってして貰えば、味の比較が出来るちゃね」


「ほやからな? お兄さん、ウチにあーんってしてくれんと? 端っこの方でいいけんね。あーんって」


「え? してくれると? ん。やっぱりお兄さんは優しいちゃね。大好きやよ?」


「ほやけど、このままじゃ食べにくいけん。もうちょっと近付いて、お兄さんの方を向くちゃね。ん、これでよかとね」


「あーん。……んっ」


「ふふっ。美味しかね。ウチが最初に味見した時と、あきらかに味が違うちゃ」


「食べているとお腹のあたりが、ポカポカしてくるけん。どう考えても、あーんの効果はあるとよ?」


「ほやけどな? おっきなおくちをあけてまっちょるんは、ちょっとだけ恥ずかしかったけんね。お兄さんにウチの喉、見られちゃったと」


「乙女の秘密を覗き見るなんて、お兄さんも意外とエッチやね……」


「ふふっ、冗談やけん。そんなに焦らんくていいとよ?」


「そしたら、ウチもオムライス持ってくるちゃね。お兄さんはビールで良かったとね? キンキンに冷えた銀色のヤツ、一緒に持ってくると」


「ん? 今日はオムライスだから、白ワインがよかの? ほやけど、前のオムライスの時は、ビールじゃなかったと?」


「前は味付けが濃いめのビーフシチューやったらビール? ふわふわ卵の場合は白ワインやの?」


「むぅ。お酒は難しいとね」


「ほやけど、わかったちゃ。白ワインを持ってくるちゃね。うちも、お兄さんに合わせてブドウジュースにするけん」


「んー? ママに貰ったブドウジュースがここにあったはずやけど……」


「お兄さーん、ブドウジュースどこ行ったか知っとっと? ん? 棚? あっ、こっちに移動してあったとね」


「お兄さんの白色のワインは、これやね。うん、それじゃあ、ウチが注ぐけんね。ワイングラスに、3分の1くらいに……」


「ん。このくらいでよかと? それじゃあ、ウチのコップにも注いで、乾杯するちゃね!」


「2人の1ヶ月記念日に」


「ん~。やっぱり、濃いめのジュースは美味しいけんね。炭酸もいい感じにシュワシュワやよ」


「お兄さんは? 新しい白色のワインやったけど、美味しかったん?」


「美味しかった? ん。それは良かったちゃね。ウチも、幸せそうに飲むお兄さんを見れて幸せやけん」


「それでな? 最初の話しに戻るとやけど。お兄さん、今日はなにがあったと?」


「特別な何かがあった訳じゃなくて、ふつうに疲れただけ?」


「ん……。あんな? いつもは『お兄さんの体が心配やけん、あんまり飲まん方がいいちゃね』って言うとるけど、今日は嫌なことを忘れるくらい飲んでよかよ。ウチが許すけんね」


「お兄さんはな? いつも頑張っとるん。根拠はないかもやけど、ウチはずっと見てたけんね。絶対に、大丈夫やよ」



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