エピローグ
病院の外へ出ようとすると、二人の女が壁に寄りかかっていた。
アイラ・マヤとヒナタ・スプリングだ。
「お疲れ様です。ギバ団長」
「お帰り。ギバ団長」
「行くぞ」
アイラとヒナタがそう挨拶するのを聞きつつ、ギバは彼女らを通り過ぎ外へ出る。
アイラ達もそれに続く。
「まったく~感謝してよね!」
ニヤニヤしながらヒナタがそう言う。
「別に頼んでいない」
「えぇ~。でもでも嬉しいでしょ?」
「……これから忙しくなるだけだ」
「素直じゃないなぁ」
ぶっきらぼうに答えるギバにヒナタはつまらなさそうに口を尖らせる。
「せっかく僕が元老院をおど……じゃなくて取引した権利なのに」
ヒナタが言った『蘇生の魔道具』以外のもうひとつの取引というのがこれだった。
ギバを騎士団長に復職すること。
この交渉には『元老院の悪事の証拠』を武器にしてもなかなか頷いてくれなかったが、手を変え品を変え懸命に交渉した結果、この権利を得ることに成功した。
曰く、
「ギバ団長がいない騎士団なんてつまらないからさ~」
というなんともヒナタらしい理由だった。
それだけの理由でかなり強引な手を使って勝ち取るのだから、呆れてしまう。
だが、あっけからんとしていて、魔道具研究以外は真面目に取り合わないヒナタがここまでして用意してくれたポストだ。
死にそうになった時のエリーの叱咤もある。
ギバはこの権利を有難く頂戴した。
このことで元老院が動きにくくなったのはまた別な話だ。
目の上ならぬ目の下のたんこぶのような存在がまた舞い戻ってきたのだから、やりづらいのだろう。
しかも今回は弱みも
簡単に辞めさせることもできない。
きっと内心、歯ぎしりをしているに違いない。
「団長という職はヒナタが思っている以上に多忙なんですよ。私も全力でサポートさせていただきます」
そして。
ギバが団長になったことで、アイラもまた副団長に戻ることができた。
第一師団は部下に任せ、今後はアイラもギバを助ける役目になった。
シュントが死したため、元通りというわけにはいかないが、昔の騎士団に戻れた。
この噂は王都中に響き渡り、とりわけ騒いだのは自警団だった。
これでまた騎士団と自警団との連携が取れる、と仕事そっちのけで、大喜びで三日三晩、酒を飲み交わしていた。
そんな噂を耳にしてギバは自然と口角が上がる。
自分を信じる者達の期待を裏切ることはしない。
もう二度と間違いを犯さない。
そうギバは新たな信念を固める。
「これからギバ団長とアイラちゃんの就任式だっけ?」
「そうよ」
「ふ~ん。じゃあ僕はこれから試作品の調整だから」
「あんたも来るのよ!」
「えぇ~! 僕、技術班だよぉ?」
「第一に騎士団でしょうが!」
「来たくなければ、別にいいぞ」
ギバがそう言うと、「え? いいの?」と嬉しそうに目を輝かせるヒナタ。
アイラもギバの言うことに驚いて、焦ったように冷や汗をかく。
だが、ギバは何かを企むようにヒナタを横目で見る。
「その代わり今年度の技術班の予算がどうなるか……」
「あぁ! ズルい!」
「それに、ヒナタには私を指名した責任がある」
「わかったよ! 行きますよ。行けばいいんでしょ!」
わかればいい、とギバは更に歩みを進める。
目指すのは騎士団本部。
「その後はどうされますか?」
アイラの質問にギバはふんと鼻を鳴らす。
「決まっている」
そして眉間に更に皺を寄せると、再び騎士団本部を睨みつけた。
「組織を立て直す!」
★★★
この日、ひとりの騎士団長が就任した。
『剛剣』の二つ名にふさわしい無骨な大剣を片手で振り上げ、元老院に臆さず、騎士団と自警団との関係を改めた、正しさを信念とする男の晴れ舞台。
彼の働きは眉間の皺に色濃く刻まれ、功績は多くの歴史に刻まれた。
彼の名はギバ・フェルゼン。
語り継がれる伝説はその後の話。
彼の英雄譚は幕を開けたばかりである。
少女⇔傭兵の成り代わり 久芳 流 @ryu_kubo
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