第4話
ラインの感想
この世界で初めてエルフに出会ったとき、アルディアは立ち止まったまま動かなかった。
話しかけるのが怖いのかな。
人との付き合いで失敗して、最期には孤独死した彼女なら、あり得そうな気がした。
案の定彼女は振り向いてこう言った。
「ねえ。どう話しかけたら不審がられないと思う?」
上着の裾をつかんで困った顔をする彼女は、自分で転生させたのに頼ってくれて可愛いと感じてしまう。
「普通に道を訊ねたら? この先に小さな町があるはずだから、それを聞いてみるといいんじゃないかな」
会話に怯える。
それほどまでに人との付き合い方を知らない。
守ってあげたいなと感じて、ちょっと戸惑ってしまう。
『ラインはまだ恋を知らないから。恋を知らない同士。彼女を守ってあげてね』
おばあさまにそう言われたのを思い出す。
『彼女はあまりに世間を知らない。世間知らずはラインも同じじゃが、ラインも男なら彼女をちゃんと守りなさい』
おじいさまにそう言われて、マスコットとしてエンジェルに擬態するのは諦めたのだった。
男として守る?
エルフと楽しそうに会話するアルディアに思わず視線を固定してしまう。
「彼氏かな? お嬢さん。彼が妬いてるよ」
苦笑いのエルフに言われ顔を赤く染めた。
不思議そうにアルディアが振り返る。
「ライン様?」
「なんでもないよ。次の町への道順はわかった?」
「それが元々土地勘がない上に私、どうやら方向音痴だったみたい」
そういう一面も可愛いのかな。
ラインのために彼女を選んだっておじいさまは言っていた。
だけど今は彼女を立派な聖女にすることを考えよう。
東の小国。
西の帝国。
北の神聖王国。
南は人種が違うから分けるとして、どこに彼女を誘導しよう?
誘導先により彼女の運命も大きく変わるだろうし。
次の町はその先へ続く別れ道。
よく考えて行動しないと。
(ボクもまだ一人前の神じゃないんだから)
「ライン様?」
「ごめん。じゃあ次の町へ行こうか?」
「え? でも、まだ道順が」
「ごめん。さっき気付いたけど町影があっちに見えてた」
言いながら遠くに見える街を指さす。
本当は最初から気付いてた。
さっきのは彼女の気負いをなくすための嘘。
神なのに嘘をつく。
そんな自分が異端なのだと自覚する。
『ライン。自分だけが異端だと思い詰めてはいけない。お前が自分を追い詰めたら、彼女はもっと余裕をなくすから。よいね』
はい。
おじいさま。
ボクは役目を全うします。
彼女を守って導いて見せます。
神として。
その考えこそが間違いだとラインは気付いていない。
祖父である創造神が、神になりきれないラインになにをさせたかったのかを。
ラインには神として、乗り越えられない課題があった。
そのためのパートナーに選ばれたのがアルディア。
重度の引き篭もりで、そのために命まで落とした問題児。
ラインはいつ気付くだろう?
自分の本当の使命に。
「その動物はどうするんですか?」
「今日の獲物だからね。ギルドに持ち込んで換金といったところかな。お嬢さん。どこの令嬢だ? ギルドも知らないみたいだが」
「ん、と。その」
「長く寝込んでいて家から出たことないだけなんですよ」
「そうかい。それは悪いことを聞いたな。お詫びに町まで案内しようか? この辺も初めてなんだろう?」
「お願いしていいかな? お互い世間知らず過ぎて困ってたんだ」
「今日は久々に大物を射止めたから、家族にご馳走してやれそうだ」
嬉しそうにそう言ってエルフの青年は、ふたりを案内していく。
次の町で待つのは出逢いか。
それとも事件か?
アルディアのスキル。
肉体強化最大レベル∞。
創造系スキルレベル1。
使用法不明。
イラストレーターレベル1。
語学スキルレベルMAX。
後のスキル。
詳細は不明。
ラインがどんなスキルを与えたか、アルディアはまだ理解していなかった。
半人前創造系スキル持ち聖女と、聖女の守護役の半人前神様〜恋の行方はスローライフで〜 奏 @22152224
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