第3話

 ヒカコはありったけの頭で、今まで父から習ってきた暗号の解き方を思い出していた。


――数字をあいうって、だめだ。、それじゃ意味がわかんない。えっと、じゃあ一個ずらし、それもダメだ、まずこの英語の部分だって。英語? えっと、英語は、EとNだよね。それに数字が六個ずつ。EとN ……


「Eの表すものと数字六個、Nの表すものと数字六個……」


 ぶつぶつと英数字を書き取った紙を見つめながらヒカコが呟いていると、執事のタカハシが、「それはもしや座標では?」と呟いた。


「座標……! それです!タカハシさん!」


 ヒカコは急いでスマホを取り出し、その座標を打ち込んだ。そして出てきた場所は、思いも寄らない場所だった。


「うそでしょ?」


「まさかな場所でございますね。すぐに飛行機を手配いたします」


「え?」


「今からそこへ参りましょう。ヒカコ様、いいえ、名探偵、ヒカコ様」


 それからは怒涛の勢いで時が流れ、あっという間にプライベートジェットに乗り、船に乗り、名探偵ヒカコと、執事のタカハシは目的地に到着した。


「ここは……?」


「ここは、金有財閥の保有する島でございます。そして、あちらが別荘。そして、あちらのビーチでトロピカルなドリンクを飲んでいらっしゃるのが、虎次郎とらじろうおぼっちゃまでございます」


 夜の七時を過ぎているというのに、あたりはまだ随分ずいぶんと明るい。白い砂浜が余計にその明るさを強調しているようだった。


「虎次郎おぼっちゃま」


「やっほ、すごいじゃんたどり着くなんて」


「あなたが、怪盗猫男爵?」


「そだよ。俺が猫男爵。なかなか手の込んだ盗みだったでしょ?」


「おぼっちゃま、なぜ、このようなことを?」


 執事のタカハシが優しくそう問いかけると、かけていたサングラスを外して、虎次郎は答えた。


「この美しい海を埋め立ててリゾートホテルにするっておばあちゃんが言ったからさ」


「それは、奥様のご意見ではなく、財閥全体のリゾート計画でございます」


「だからだよ。おばあちゃんがうちで一番偉いじゃん。だから、アボカドの種を盗んだんだ」


「なぜ、盗む必要が?」


「決まってるだろ。そんなアボカドの種って宝石よりも、この美しい自然の方が何倍も価値があるって教えてあげたかったのさ」



 そういうと、虎次郎は波打ち際まで歩いて行き、秘宝、アボカドの種をエメラルドグリーンの海の中に放り投げた。


「「あああっ!!!」」


「探し出すまで、工事はできないね。あの辺、いきなり深くなるとこだから、見つかるかなぁ? ね、タカハシ」


「ぼっちゃま」


「この海とこの島は、僕の家族の思い出の島なんだ。だから、絶対にリゾートなんかにさせないよ」


 そう言った虎次郎の目はとても真剣で、その真剣な眼差しの意味を執事のタカハシだけは知っているのだった。




 宝石よりも大事なもの、それは家族との思い出。

 名探偵ヒカコは、見つめ合う二人をみて、これで一件落着だと思ったのであった。












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名探偵になりたいヒカコと怪盗猫男爵 和響 @kazuchiai

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