第8話 な、ないちゃった……!
「あとはこの坂を登るだけですわよ」
その言葉を聞いた久保くんは、嬉しそうな笑顔に反して顔は真っ青だった。
久保くんは歩き疲れ果てて早く帰りたいらしい。まあ、帰るのに軽く山登らないといけないんですけど。
「いややぁ……もーいややー」
「おぶりますか?」
「お、女の子に気ぃ使われるんもいややぁ」
さすがに見かねて下畑さんが提案するも、一番悔しそうな顔で久保くんは首を振った。
しかし駄々をこねながらも、久保くんの足はしっかり動いている。頑張れ!
「メンタルが弱すぎますわね。何か簡単なゲームをして疲れから気をそらしてみませんこと?」
一紅衣さんのアイデアに賛成した俺たちは、早速何をするか決め合う。
「みなさんが分かりやすいものが良いですわよね」
「しりとり!」
疲れている本人の希望によりしりとりをすることになった。決め合ってなかったな。速攻だった。
「りんご」
「ごま油」
「ライム」
「ムーンライト」
久保くん、俺、下畑さん、一紅衣さんの順番だ。
「とびら!」
「らくだ」
「ダンス」
「スカイダイビング」
「ぐみ?」
「未確認飛行物体」
「イラク」
「クールタイム」
単語のリレーはしばらく続いて、何も出なくなって終わった頃ちょうどゴールにたどり着いた。
「ゴリコとかやっても面白そうだったね」
「ゴリ……? なんですか? それ」
一紅衣さんと達成感に浸った久保くんが先生にゴールスタンプをもらっている。
その間呟いた俺の一言に、下畑さんは不思議そうにする。
うそ。ゴリコ知らないの?
「じゃんけんして勝ったら前に進める、みたいなゲームだよ。ほら、オオサカに両腕片足上げたお兄さんいるじゃんあの人(?)がモチーフ」
「そんな人いました? ……もしかして大きい看板のことですか?」
「そう」
下畑さんは全く分かっていない顔だ。ゴリコとじゃんけんのゴリコのつながりは俺も知らないので、これ以上の説明はできない。
「なんの話?」
「ゴリコ」
「あー! ゴリコやってもよかったかもしれんね!」
スタンプが押されたカードを掲げながら駆け寄ってきた久保くんは、ゴリコのことを知っているらしい。というか、まだ体力残ってたんだ。
「一紅衣様はゴリコというじゃんけんのゲーム知ってますか?」
「なんとなく、分かりますわよ」
下畑さんの質問に答える一紅衣さんの歯切れが悪い。
嘘つけ。ガキの頃ガッツリゴリコで遊んでただろ。
なんでグーは三歩しか歩けないんだって一緒にキレてたじゃないか。
とは思うものの口には出さない。この話はヤブヘビすぎるので。
偶然にして再会した俺と一紅衣さん、知り合いにはなれただろう下畑さん、結構仲良くなれたと思ってる久保くんの四人のウォークラリーは終わった。
「あら、そういえばどうして“一紅衣さん”なんて他人行儀な呼び方ですの?」
ひゅっ。
これは最初に一紅衣宮子の名前を見つけた時以来の身体的反応だ。
首がペットボトルのように拗られている。
顔をそらしたくても、一紅衣宮子が回り込んでくる。これは本物の蛇の目だ。
いやあ、だって久しぶりにあって気安くあだ名で呼べるわけないじゃん。出来るのは小学生までだよ。
みゃーちゃん、みゃーちゃん言うのは流石にキツイって。
「一紅衣ちゃんってもしかして名前呼びの方が良い子なん?」
「え!? そうなんですか一紅衣様」
割と近くに二人がいたので聞こえたらしい。
もしかしてこれは流せるのでは……
「っそうですわ!」
通しちゃった!
「宮子ちゃん!」
「久保康ィ調子に乗るなよ……」
「えぇ、めっちゃ恐いんやけど」
一紅衣さんはかっぴらいた目でずっと俺を見てくる。
やめて。
「ほら、“宮子ちゃん”って気安く呼んで」
にっこりと彼女は笑う。
「み、みや、みや、みゃ、みやぁ」
言えん言えん言えん。こんな言えないことある? ってくらい最後の“こ”が出てこない。
「あらあら。こんなところで大きな猫ちゃんが鳴いてますわぁ」
「みや゛ぁぁあ゛」
「やめたげてぇ! コウくん本当に泣いてまう!」
「猫!? どこに猫さんがいるんですか??! 私ネコアレルギーで……!」
混沌とした空間ができた。
お前昔と全然違うじゃん! うさ公 @ussaaa
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