第7話 もてあそばれた……?
「もー! ここのこと知ってるなら先に言ってくださいよ! そうすれば一紅衣様を無駄に歩かせてしまうこともなかったのに」
「はい……」
下畑さんに正論で殴られながら、俺は目的地点への先導を行っていた。
あのジジイ店主に気づかれなければ……
なんだかんだ、下畑さんの方向音痴に付き合ってだらだら街探索してる方が楽しかった気がする。
「あなた先週行っただけの割には迷いなく進みますわね」
「先々週も行ったから」
「二回も行ってなにをしてましたの?」
「探索」
「……あなた、昔から本ッッッ当に変わってないですわね」
一紅衣さんが呆れた目を向けるので、顔を反らす以外なかった。
「でも先週は部活動って名目で来たからさ……」
「あら、何部ですの?」
「写真部」
「あらあらあら似合ってますわよ。他の部員の方とも行きましたの?」
「一人だけど?」
「ふぅん? ふーん、ふーん! なるほどですわ」
なにがなるほどなのか、これっぽっちも分からないが詳しく聞くのも面倒なので流した。
「一紅衣ちゃんと仲良くなったん?」
「っば、そんなんじゃねぇよ……!」
「なんなん? そのわざとらしい言い方。楽しそうでよかったけど」
久保くんに変なノリを出してしまった恥ずかしさで、そこの海に沈みたくなってきた。
そんな俺を知ってか知らずか、久保くんは態度を変えないでいてくれる。
久保くんって、結構あっさりしてるよね……
「もうあと一個やん。なんかさくさく過ぎてつまらんわあ」
そんなこと言われたら泣いちゃうぞ。いいのか?
時計屋を出発した後、先導は俺になったわけだが、任された役目を全うしようと頑張ったら予想以上に早く終わりそうだった。最初の一つ目で手こずっていたのでちょうど良い時間にゴール出来そうだ。
スタンプゲットのクイズは、ナンダソレ系と真面目系が半々だった。少しは統一してほしい。
このウォークラリーのスタンプ、結構凝ったデザインをしているので、押された台紙を見るのが楽しい。収集癖の人の気持ちが分かってしまう。
時計屋のスタンプはうさぎが懐中時計を持ってる姿が彫られている。鴨じゃないんだ……
「こういうところに来てただ歩くだけというのも良いものですね」
下畑さんは、この街から見える海に目を細めた。
俺は彼女の言葉に力強く頷いた。
下畑さんと最初に顔を合わせてから、こんなふうに落ち着いた表情を見るのは初めてかもしれない。
「この街のマイナスイオンに下畑ちゃんが癒やされとる」
「正直下畑さんは一紅衣さんにしか興味ないと思ってた」
「では、今度の連休、一緒にどこかの街にお出かけしますか?」
「!? エ!? いっ、一紅衣様とオデカケ!? い、いいいいいい良いんですかぁ〜!!!!??」
「あら、嫌なら先程の言葉は取り消しますわ」
「1ミリも拒否しておりません! ぜひ! 一紅衣様と! お、おおお出かけ、したいです……!」
すごく嬉しそうにバタバタ暴れている。
よかったね。
「僕らも連休一緒に遊ぶ?」
「エ゛エ!?」
え? 俺たち休日に遊べる仲になってるの? いいの? 一緒に遊んでいいの? ホンマか? ホンマなんやろな?
「嫌そうな顔せんくて安心したわ! でもごめんけどゴールデンウィークは僕実家に帰るから遊べんわ」
「もてあそばれた……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます