ただ真っ直ぐに君の元へ・・・

真那月 凜

プロローグ

「李砂!」

「摩耶、今帰り?」

駅で声をかけてきた友人に笑顔で答える

「李砂も?」

「そだよ」

「ふ~ん・・・ねぇ、呑みに行かない?」

「呑みに?別にいいけど」

「決まり。行こ」

摩耶に促されて李砂は歩き出す

「こないだ会社の子に教えてもらったいい店があるんだ♪」

摩耶はうれしそうに言う

「へぇ、どこ?」

「ここからすぐだよ。『叶』ってお店。知ってる?」

「・・・『叶』?」

李砂が立ち止まる

「李砂?どうかした?」

「え?あ、なんでもない」

再び歩き出したものの李砂は店に着くまで何も話さなかった


「ここだよ~」

摩耶は笑顔で言うと中に入っていく


「いらっしゃいませ~」

明るい声が響く


「2名様で・・・李砂さん?!」

ウェイトレスが李砂を見てためらう

「オーナー」

彼女が呼んですぐに奥から誰かが出てきた


「ひゃ~かっこい~」

摩耶が唖然とする


「どうした?」

「あの、李砂さんが・・・」

そう言われた彼は2人の方を見た

「お前・・・」

「ごめん、摩耶出よ」

李砂は摩耶の腕を引っ張って店を出た


「李砂!」

彼が追いかけてくる

「来ないで」

凛とした声が響く

「待てよ!ずっとお前に会いたかったんだ!」

「・・・え?」

李砂は突然立ち止まり彼が追い付いた


「伝えたいことがある」

「・・・」

「玲衣の事だ・・・」

その言葉に李砂はしばらく考え込んでいた


「・・・ごめん摩耶今日はキャンセルしていい?」

「あ・・・うん」

「ごめんね。今度埋め合わせする」

「わかった。じゃぁまたね」

摩耶はそう言って帰っていった


「ちょっと付き合ってくれ」

嵐はそう言って歩き出した

李砂は何も言わずに嵐の後を追った


「入って」

嵐がそう言ったのは彼らの家の前だった

「嵐?」

「いいから」

嵐はそれ以上何も言わずに玄関の戸を開けた


「ただいま」

「・・・帰ったの?早いのね?」

「あぁ。客いるから」

そんな短い会話のやり取りに李砂は違和感を覚えた


「・・・李砂ちゃん・・・」

奥から出てきた女性が力の無い声で言った

「おばさん・・・ご無沙汰してます」

李砂は驚くほどやせ細った彼らの母親に目が釘付けになった


「今更どうしようって言うんだい嵐?」

「・・・」

「あの話はもう決ったんだよ?」

「分かってる。でも最後に・・・」

2人の会話の意味が李砂には全くつかめなかった


「李砂」

「え?」

「1年前約束してたんだよな?」

「・・・」

「俺がそのこと知ったのは3ヶ月後だったんだ

 その時にはもうお前は引っ越して連絡先もわからなかった」

「・・・」

李砂は無言のまま聞いていた


「玲衣はちゃんと家を出たんだ」

「・・・え?」

「あの日の朝嬉しそうに言ってた『李砂と約束があるんだ』って・・・」

「どういう・・・こと?」

李砂はわけがわからなくなっていた

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