第3話 心を乱す言葉

「れ・・・い?」


「作り笑いなんかしなくていい

 辛いときはちゃんと泣いたほうがいい・・・

 俺が言えた義理じゃないだろうけど・・・」


その言葉に李砂は大切な時を思い出す


  ***


「りーさっ」

「玲衣・・・おはよう」


屋上に突然現れた彼に李砂は急いで笑顔を作った


「無理するな」

「・・・え・・・?」

「俺にまで愛想笑いするな」

玲衣はきっぱり言った


「おじさんとおばさん同時に亡くしたんだ。辛くて当然なんだから」

「玲衣・・・」


「俺が守るから

 おじさんやおばさんの分も俺が大事にするから

 俺の前で作り笑いなんかするな」


優しい声だった


いつも一緒にいた玲衣からそう言われたのは高3の時だった

友達以上恋人未満の状態から恋人になった瞬間でもあった

李砂は玲衣の胸にしがみつく様にして泣いた


「辛い時はちゃんと泣け」

玲衣は李砂を抱きしめてそう言った


  ***


「何で・・・」

「?」

「・・・記憶が無くても同じ言葉を掛けるの?」

そう言った李砂の目から涙が溢れた


「あの時と同じ言葉を・・・同じ声で・・・!」

皮肉にさえ思えた


自分にとって忘れられない言葉を同じ玲衣の口から聞いても

玲衣は自分のことなど覚えていない


「・・・ごめん。あなたは何も悪くないのに・・・」

やりきれない思いがつのっていく

「帰る・・・ね。施設に行っても元気で・・・」

「・・・」

玲衣は何も言わなかった


「・・・これ」

李砂は自分の右手の薬指から指輪をはずした


「あの時のあなたがいないならもう意味の無いものだから返すね・・・」

李砂はそう言うと玲衣の手をとってその指輪を握らせた


「・・・それでいいのか?」

「だって・・・あなた自身が覚えてないんでしょ?そのリングの意味を・・・」

必死で涙を堪えているのだけが分かった


「もし・・・」

「?」

「・・・ごめん。なんでもない」

李砂はそう言って静かに微笑んだ


「玲衣は・・・・・・あなたは幸せになってね」

そう言い残して李砂は玲衣の前から姿を消した

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