第8話 自分たちのペースで…
「玲衣!」
「李砂・・・何で?」
玲衣を見つけるなり玲衣の胸に飛び込んだ李砂に卯月さんも驚いていた
「玲衣の馬鹿・・・」
「・・・」
「あの日から辛い思いなんてしてないよ?
玲衣に思い出がない分寂しいって感じることはあるけど
玲衣が私の事見てくれるだけで充分なんだよ?!」
李砂は責めるように言った
「李砂・・・」
「だから・・・自分のこと責めないで・・・」
李砂の目から涙が零れ落ちた
「・・・何か言ってやれよ」
「卯月さん・・・?」
「彼女、今の伝えるためだけにこんな所まで来てくれたんだろ?」
「あ・・・すいませ・・・」
李砂は初めて卯月さんの存在に気づきあたふたしていた
「ちょうど噂をしていた所だったんですよ。まさかこんな綺麗な方だとは・・・」
「そんな・・・でもありがとうございます」
李砂は涙を拭いて笑顔で言った
「改めてはじめまして、水城です」
「卯月です。私はこれで失礼するのでどうぞごゆっくり」
「すみません。ありがとうございます」
頭を下げる李砂に微笑んで卯月さんは立ち去った
「部屋行くか」
「うん」
2人は玲衣の部屋に移った
「ごめんね。こんな所まで押しかけちゃって・・・」
「いや。いいよ」
「でも・・・」
李砂はうつむく
「むしろ嬉しいよ」
「え?」
「正直自信ないんだ」
「?」
「李砂が記憶失くした俺の事をいつか嫌になるかも知れないってさ」
「そんな・・・」
李砂は首を横に振る
「頭では分かってる。でもその不安が消えないんだ
だから記憶が戻ってきてるっていっても完全じゃない状態では言出だせなかった」
「・・・」
「だからお前がこうして来てくれたのはマジで嬉しい」
「玲衣・・・」
李砂はベッドに腰掛けている玲衣の頭を包みこむように抱きしめた
「玲衣」
「ん?」
「玲衣が記憶取り戻してきてるのは気づいてたよ?」
「!」
玲衣の体がこわばる
「時々昔みたいに呼ぶの
それに記憶を失くした玲衣の知るはずのないことを普通に話す事も・・・」
「・・・」
「ずっとね、問いただそうって思いながら出来なかったの
不安だったのは私も同じだよ?でもそれは仕方ない事だって思う」
「仕方ない?」
「うん。1年間完全な空白の時間があって玲衣にはそれ以前の記憶すらないんだもん」
「李砂・・・」
「だけど時間はいっぱいあるじゃない?
だから何度も立ち止まって後ろ振り向いて・・・
それでも少しずつ進んでいけたらそれでいいって思う」
李砂はそう言って玲衣の髪をそっとなでる
「気付いたの」
「気付いた?」
「うん。玲衣が記憶なくしても玲衣自身は何も変わらなかった」
「李砂・・・」
「私は玲衣がいてくれたらそれでいいんだって・・・
玲衣の笑顔が見ていられたらそれで幸せなんだって・・・本当にそう思うの」
李砂はそう言って幸せそうに笑った
「玲衣が私の元に来てくれたように私も・・・
何があってもこうして玲衣の元に来る・・・
だからずっと一緒にいよう?」
「・・・サンキュ李砂」
玲衣は再び李砂を抱きしめた
―――気持ちを確かめ合った2人は新しい1歩を踏み出した
ただお互いの幸せを願いながら―――
Fin
ただ真っ直ぐに君の元へ・・・ 真那月 凜 @manatsukirin
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