第16話

宗太の手伝いを得られなかった恵海とキラリだったが、代わりにタキができる限り手伝うことになった。

「えっと、これどこにつけるんだ?」

「あ、それ腕の部分の装甲。ネジ止めして。」

タキはロボットの装甲になるプラスチックのカバーを体にネジ止めしていった。

「意外にタキって器用なのね。」

「おうよ!料理で培った器用さだぜ!」

タキは自慢気に言ってカバーを全てネジ止めした。

「うしっ、こんなモンか?」

「オッケーです!じゃ、試運転します!」

そう言って恵海はラジコンのリモコンを手に、操縦を開始した。

「へえ、ラジコンみたいだな。」

「はい、プログラミングさえしっかりやれば簡単ですよ。まず、腕・・・」

リモコンのスティックを上に倒した。すると、ロボットの右腕が上に上がった。

「お、動いた!」

「やった!成功じゃん!」

ロボットが動き、タキとキラリは声を上げた。恵海はさらに脚、腰、頭など体の各部を動かす。いずれも問題無く動いている。

それを見て、恵海はガッツポーズをとった。

「やった・・・!!」

恵海は興奮のあまり飛び跳ねてしまいそうだった。自分達で作ったロボットが思う通りに動いたのが嬉しかったのだ。

「よかったな、恵海。」

タキはそれを理解し、恵海に笑いかけた。

「はい!」

恵海は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「おお、やっとるか?」

その時、部室に竹生が入ってきた。

「おお、タケ先。」

「見てよタケ先!私らのロボットが完成したよ!」

「俺も手伝ったぜ!」

「そうかそうか。おお・・・よく出来てるなぁ。私はこういうのはあまり分からんが、こう、なんというか・・・熱意を感じるな!」

竹生は出来たロボットを眺めながら微笑んだ。

「熱意ってんなら、恵海のが一番だな。」

「え?」

恵海は思わず声を上げた。

「ロボットを作ってる時のお前の顔。プラモ作ってる時とおんなじ顔してたぜ。真剣な顔つきで、そんでもって『楽しくって堪らない!』って顔だ。」

「タキさん・・・」

タキの言葉を聞き、恵海は嬉しくなった。自分のことをちゃんと見てくれていると理解したからだ。

「そういうとこ見てると、なんか愛おしくなってくるというか・・・かわいいよな、お前。」

タキはさらりと恵海に向かって「かわいい」と言ってのけた。それを聞いた恵海は顔を真っ赤に染めた。

「かわっ!?かかか、かわわわわわわ・・・!!」

好意を寄せている異性から「かわいい」と言われて平常心でいられる人間は少ないだろう。恵海も例外ではなく、恥ずかしさのあまり頭が爆発しそうになっていた。

「トトト、トイレ行ってきますぅ〜〜〜!!」

恵海は限界に達し、部室を出ていってしまった。

「なんだよアイツ・・・大げさだな。」

「滝沢・・・お前はもう少し乙女心を理解した方がいいな。」

恵海の態度を見て察したのか、竹生はタキの肩をポンと叩いた。

その横で、キラリは顔には出さなかったが、悔しそうにスカートの裾を掴んでいた。

(やっぱり、タキの方がいいの・・・?)

「私も・・・トイレ行ってくる。」

恵海の後を追うようにキラリも部室を出ていった。


――――――――――――――――――

「あー、ビックリした・・・タキさんったらいきなりあんなこと言うなんて・・・」

恵海はトイレの手洗い場で赤くなった顔を冷まそうと顔を洗っていた。

「でも、そんなとこも好きだったり・・・な、なんて!えへへ・・・」

恵海はタキに「かわいい」と言われたことを思い出し、ニヤニヤ笑った。

その時、

「恵海?」

キラリがトイレに入ってきた。

「あ、キラリちゃん。ゴメンね、いきなり出てって。すぐ戻るから。」

そう言った恵海に対し、キラリはその前に立ち塞がった。

「キラリ、ちゃん?」

「あのさ、この前・・・神奈川行った時、ホテルで私、恵海にチューしたじゃん。そのこと、どう思ってる?」

「え?あっ・・・」

恵海はその時のことを思い出し、頬をほんのり赤く染めた。

「あの時は・・・恥ずかしかったけど、キラリちゃん流のスキンシップだって思ってるから、大丈夫だよ。」

恵海はそう言うと、キラリの横を通り過ぎようとした。

だがその時、キラリは恵海の腕を掴んだ。

「待って!恵海・・・私のことどう思ってる?」

「どうって・・・キラリちゃんどうしたの?なんか変だよ?」

「いいから、答えて。」

キラリは恵海の壁際まで追いやって問い詰めた。

「キラリちゃんは・・・私の、友達だよ?」

「ただの・・・友達?」

キラリは恵海の肩を掴んだ。

「私は・・・友達以上の関係でいたい。」

「友達以上って・・・」

キラリは今こそ言おうとした。ずっと前から言いたかったことを、心の底から叫びたかったことを。

「私・・・最初に見た時から、恵海のことが好きでした!」

キラリはついに恵海に告白した。

「私の彼女になってください!」

キラリはさらに続けて言った。対し恵海はしばし茫然とした後、口元を抑え、キラリを跳ね除けて立ち去ってしまった。

「あ・・・」

後を追おうとしたが、出来なかった。反応を見て、恵海に嫌われてしまったとキラリは思った。

(終わった・・・全部・・・)


――――――――――――――――――

その後、キラリは萌木の店を訪れた。

「・・・で、逃げられちゃったのね。」

事情を全て萌木に話し、キラリは差し出されたオレンジジュースを飲んだ。

その瞬間、目から涙があふれた。

「嫌われた・・・絶対嫌われた・・・!もう帰れない・・・!」

キラリは涙と鼻水を流してグズグズと泣いた。

「ほら、鼻が出てるわ。」

萌木はティッシュを差し出した。キラリはそれを受け取ると、一枚取って勢いよく鼻を噛んだ。

「マスター、今日ここに泊めてよ・・・倉庫とかトイレでもいいから・・・」

「ダメよ。ちゃんとタキちゃんのところに帰りなさい。」

「タキ・・・」

キラリはタキの名前を聞いて顔を思い浮かべ、腹を立てた。

思えば、恵海がタキに恋をしなければ、こんな思いをしなくて済んだかもしれない。そう考えてしまうと、タキのことが憎らしく思った。

「でもまぁ、タキちゃん結構イイ男なのよね~。私も何度も恋に落ちそうになったし・・・」

キラリから事情を聞いていた萌木は静かに呟いた。

「どこが?あんな鈍感男、どこがいいわけ?」

その時、キラリはタキに対して悪態をついた。

「恵海があんだけ分かりやすい反応してんのに、なんで気づかないわけ?気づけっての・・・バーカ!」

不機嫌そうに言うキラリを見て、萌木はため息をついた。

「・・・タキちゃんが鈍感なのには、理由があるのよ。」

「理由?なにそれ。」

「今は言えないわ。タキちゃんに口止めされてるから。」

萌木はそう言って自分の口に指を当てた。それに対しキラリはまたも不機嫌になった。その時、店の電話が鳴り響いた。

「はーい、もしもし。あら、タキちゃーん!・・・ええ、キラリちゃんならいるわ。ちょっと待って。」

萌木は一度受話器を離し、キラリに差し出した。

「タキちゃんから。出なさい!」

「・・・もしもし。」

キラリは不服ながらも電話に出た。

『おう、大丈夫か?』

タキは怒るでもなく、キラリの安否を気遣った。

『恵海となんかあったのか?アイツ、何も話さなくてよ・・・』

「・・・それは・・・」

『言いたくねぇなら言わなくていい。でも、みんな心配してっから、早く帰ってこい。後、恵海が話したいことがあるってさ。』

「恵海が・・・?」

キラリはギュッと受話器を握りしめた。タキの言った一言が胸を締め付けた。

「・・・わかった。」

『後、俺は何があっても・・・お前ら二人を応援するよ。同性愛だろうが何だろうが、お前がアイツのこと好きだって気持ちは変わんねぇだろ。』

「タキ・・・ありがと。」

キラリはタキに礼を言った。タキを憎むことができなかった。

同性愛者ということなど関係なく、自分のことを応援しているタキを、憎めるはずなどなかった。

キラリは電話を切り、席を立った。

「マスター、ごちそうさま!」

「ええ、またいらっしゃいね。」

キラリはそのまま店を出て、「タンポポ」に向かって走った。


――――――――――――――――――

その後、「タンポポ」に帰ったキラリは遅くなって心配をかけてしまったことをタキや海里、ヂーミンに謝り、タキが温めなおしてくれたハンバーグを食べた。

そして、キラリは恵海の部屋の前に立ち、ノックした。

「開いてまーす!」

返事を受け取り、キラリはドアを開けた。

「あ、キラリちゃん。」

「恵海・・・今日は、本当にごめん。」

キラリは申し訳なさそうに顔を伏せ、謝った。

「私、本当にどうかしてた。あんなこと言って、恵海を困らせるだけなのに・・・自分のことだけ優先して・・・」

キラリは申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、謝罪の言葉を述べる。

「本当、ごめん・・・さっきの言葉、忘れていいから・・・」

そう言ってキラリは部屋を出ようとした。今後、ギクシャクした関係が続くかもしれないが、自分が蒔いた種だ。自業自得だ。

そう思った時、

「待って!」

恵海は背後からキラリを抱きしめてきた。

「え、恵海!?」

いきなり抱きしめられ、キラリは胸がドキドキと高鳴った。

「確かに・・・私、あの時はびっくりしちゃった・・・いきなりあんなこと言われるなんて思わなかったから・・・でも・・・」

恵海はキラリの服の裾をギュッとつかんだ。

「私、キラリちゃんの告白にちゃんと答えたい。キラリちゃんは私のことずっと気遣ってくれたし、ロボのことなんて興味ないのに、一緒に部活入ってくれたし・・・だから、今は準備しておきたいの。」

「準備・・・?」

恵海はコクリと頷き、キラリの方に顔を向けた。

「うん。キラリちゃんの気持ちに、ちゃんと向かい合うから。だから・・・返事、待っててくれる?」

キラリは胸が締め付けられそうだった。自分が勝手に言ったことなのに、ちゃんと向き合おうとしてくれる恵海の心の広さに泣きそうになり、感謝で胸がいっぱいになった。

「・・・はい!」

今にも泣き出しそうな声で返事をした。

「じゃあ、また明日ね。」

「うん・・・!」

恵海と軽く手を振って別れ、キラリは部屋に戻った。

部屋に戻ったキラリは、ベッドに横になって枕を抱いた。

「・・・・あ~~~~っ!!恵海~~~っ!!何あの対応!惚れ直しちゃうじゃーん!反則でしょあの対応ー-!!」

枕を潰す勢いで抱きしめながらベッドを転げ回り、キラリは悶えた。予想だにしなかった恵海の対応に、キラリは心の底から惚れてしまったのだった。

その時、

「はぁ、やれやれ・・・」

部屋の外では、タキがそのことを盗み聞きしていた。聞いたタキはため息を吐いた。

「まだまだ前途多難になりそうだな・・・」

恵海とキラリがどんな関係になるのかは、まだ誰にも分らない・・・




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下宿「タンポポ」の大家さん 地理山 @chiriyama

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