第15話
「いってきまーす!」
「おう、いってらっしゃい。」
皆、朝食を食べ、学校へ向かう。いつも通りの朝の光景だ。
すると、
「あっ、タキさん。今日私、部活で遅くなりますから。」
「私もー!」
恵海とキラリがタキに告げた。
「おう、じゃあ何か作り置きしとくよ。でも・・・お前ら何の部活に入ったんだ?」
「えっと・・・『ロボットバトル部』です。」
「ろ、ろぼ・・・?」
聞きなれない部活の名に、タキは困惑した。
「乃生平高校にそんなのあったか・・・?」
タキは二人が通う乃生平高校の卒業生だったが、「ロボットバトル部」という部活には聞き覚えがなかった。
「当たり前じゃん。結構最近できたんだから。」
「ふーん・・・まぁ、頑張れよ。」
そうして恵海とキラリは「タンポポ」を後にし、学校へ向かった。
タキはお茶を飲みながらチラシを読んだ後、食器を片付け、洗い始めた。
「ん?」
その時、タキは食器棚に入ってるものに目が留まった。
「あっ!!キラリの弁当!!」
食器棚にタキが作った弁当が入っている。キラリはこれを持っていくのを忘れていたようだ。
しかし、今から追いかけても間に合わない。
「うーん・・・久々に母校に行ってみるか。」
タキは母校、乃生平高校に行くことに決めた。
乃生平は電車で二駅進んだところにある。駅を降りて歩いて10分程度。坂を登れば学校は目の前にある。
「ひさびさだなぁ・・・乃生平。」
乃生平高校にたどり着いたタキは、懐かしい気分に包まれていた。
その時、
「コラァッ!そこの不良生徒!」
「うおっ!?」
突然の怒号にタキはビクッと体を震わせた。
「・・・って、懐かしいなぁ・・・タケ
タキは喜びながら後ろを向くと、そこにはメガネをかけた初老の男性教師がいた。
「松梅先生と呼びなさい!まったく・・・お前という奴は!」
松梅という教師はタキを叱りながらも、会えたことに喜びながらタキの肩を抱いた。
「変わらんなぁっ、お前は!」
「タケ先こそ、全然変わってねぇよ!」
男性教師の名は
「お前と会うのは何年ぶりか・・・彼女の葬式以来だったか・・・あの時は・・・」
「タケ先。その話はいいじゃねぇか。」
「・・・すまん。」
話を続けようとした竹生だったが、タキに止められた。
「ところで、滝沢・・・今日はどうしてここに?」
「あっ、そうだ!なぁ、タケ先。ちょっと人を探してンだけどよ・・・」
弁当を届ける用事を思い出したタキは、竹生にキラリがいるクラスを聞こうとした。
その時だった。
「松梅先生ー!」
聞き覚えのある声が竹生を呼んだ。
「あれ・・・?恵海?」
そこにやってきたのは恵海だった。
「タキさん?どうしてここに?」
「いや、キラリの奴弁当持ってくの忘れててよ。」
「あ、じゃあ私届けますね。」
「サンキュー!」
タキは恵海に弁当を手渡した。すると、竹生が不思議そうにタキと恵海の顔を見た。
「なんだ、二人とも知り合いか?」
「恵海とキラリは、俺の下宿に住んでんだ。」
「おおっ、そうだったか!『タンポポ』の・・・!」
言われて納得したのか竹生はウンウンと頷いた。
すると、恵海は竹生に声をかけた。
「あの、先生。部活のことでちょっと話が・・・」
「おお、そうか。じゃあ、放課後部室で話そう。」
「はい。」
二人が話を進めていると、今度はタキが不思議そうな顔をした。
「部活って・・・恵海、お前確か『ロボットバトル部』って言ったよな。」
「はい。」
「それで、なんでタケ先が・・・?」
「なんでも何も・・・私がそのロボットバトル部の顧問だからだ!」
「顧問?」
竹生の一言に、タキは声を上げた。
「でも、タケ先・・・アンタずっと運動部の顧問ばっかやってたじゃねぇか。野球とかサッカーとか・・・」
「ああ、それはだな・・・」
竹生が説明しようとしたその時、学校のチャイムが鳴り響いた。
「あっ、じゃあ先生!また後で!」
「うむ。授業に遅れないようにな。」
挨拶をし、恵海は教室へ戻っていった。
竹生はタキの方に顔を向け、先ほど説明しようとしたことを話し始めた。
「実は・・・私は、もうすぐ定年でな。喜田君が卒業する頃には、私は定年退職する。」
「そう、なのか・・・」
「だから、やったことないことをやっておこうと思ってな。定年前の、初めての文化部顧問だ。」
「そっか・・・」
竹生の話を聞き、タキはあの時世話になった担任がいつの間にか定年間際になっていたことに、時間の流れが進んでいるとしみじみと感じていた。
(俺も歳食ったってことかな・・・)
「なぁ、タケ先。そのロボットバトル部?っての、ちょっと覗いてみてもいいか?」
「ああ、構わんぞ。」
放課後、タキはロボットバトル部の部室に訪れた。場所はパソコン室だった。
(パソコン室か・・・あの時は授業そっちのけでゲームばっかしてたっけ。)
タキは昔を思い出しながら扉を開けた。
「あっ、タキさん!」
「あれ?タキじゃん。」
扉を開けると、そこには恵海とキラリが何やら作業をしていた。
「よっ!ちょっと見学しに来たぜ。」
タキは二人のところまで近づいた。近くで見てみると、恵海はパソコンで何やらプログラミングを、キラリは操縦するロボットに色を塗っていた。
「うーん・・・何やってんのかチンプンカンプンだぜ・・・」
「私はロボットのモーション・・・動きをプログラミングする担当です。」
「で、私はロボットのデザインと塗装係!」
「なるほどなぁ・・・キラリ、ちょっといいか?」
タキはキラリを連れ、部屋の隅に寄った。そしてキラリに耳打ちを始めた。
「ちょっと気になったけど、なんでお前がこの部活に・・・?まさか・・・」
「そのまさかです。恵海と一緒にいたいからです♪」
キラリがこの部活に入った理由は単純明快。大好きなキラリと一緒にいたいがためだった。
「そんな動機で入って大丈夫なのかよ・・・?」
「大丈夫!恵海が本気でやるなら、私だって本気でやるもん!」
「ならいいけどよ。」
タキは心配そうにため息をついた。
「二人とも何話してるの?」
二人の様子が気になったのか、恵海が声をかけてきた。
「あ、ううん!なんでもないよ!あ、そうだ恵海!ロボットの制作手伝ってくれる人、タキにも探してもらおうよ!」
「制作?」
タキは首を傾げた。
「うん。見ての通り、今ロボの制作してるんだけど・・・二人だけだから手が足りなくて・・・」
「この部活、二人しかいねぇのか!?」
「その、もう一人いるんですけど・・・はっきり言って、幽霊部員で・・・いつも来ないんです。」
「だから私達二人で作るしかないわけ!たまにタケ先が手伝ってくれるけど・・・あの人おじいちゃんだし、細かいの作るの向いてなさそうだし・・・」
二人の話を聞き、納得した様子でタキはウンウンと頷いた。
「なるほどな。でもロボット作りなんて、それこそ頭いいやつしか・・・そうだ!宗太だったら・・・!」
タキはすぐさまスマホを取り出し、友人の宗太に電話を掛けた。
「あいつ東大卒だから、力になってくれるかもしれねぇ!」
須央宗太はタキと同じく乃生平高校の卒業生で、東大を卒業したほどの頭脳を持った男だった。宗太なら力を貸してくれる、タキはそう考えていた。
『もしもし?』
「おう、宗太!今な、乃生平に来てんだけどよ・・・ちょっと来て手伝って欲しいことあんだよ!」
『乃生平・・・?』
乃生平の名前が出た瞬間、宗太の声が曇った。
『悪いけど、忙しいんだ。母校なんか行かないよ。』
「お、おう・・・そうか・・・悪いな。」
いつもより低い声を出して断った宗太に、タキは戸惑いながらも謝った。
対し、宗太は謝り返すこともなくそのまま通話を切った。
「なんだよ、宗太の奴・・・?」
「どうしたの?」
「いや、宗太の奴忙しいみてぇだ。」
タキは二人に事情を説明し、ふとスマホを見つめた。
(なんか様子変だったな・・・母校なんか行かない・・・?)
あの時の宗太の一言がタキの胸中に引っかかっていた。「母校なんか行かない」、どこか引っかかる言い回しだった。
しかし、タキはそこまで気にすることなく、スマホをポケットにしまった。
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