第5話

「僕もシュトラの剣の腕が普通以上だったら、応援してあげたかったんだ。だけど、あまりにも……」


 父はそこで言葉を止めた。

 やめて……そんな目で見ないで、父上!


「本当はシュトラに剣の先生をつけてあげたかったんだ。だから、何度か先生になってくれそうな人を見繕ってたんだが、毎回シュトラの練習風景を見ると断られてしまって、もうどうしようもなくなってしまってね」


 うう、胸が痛い……心が苦しいよ……。もしかして、これが恋ッ!?

 なんて、シュトラが現実逃避をしている間にも話は続く。


「シュトラは魔法の適正は一応、魔術の名門と呼ばれているこの家の中でもダントツで高いのだから、やっぱり君の将来の為にも魔法を一度は学んで貰いたくてね」


 ああ、ダメだ。ぐうの音もでない。これが正論というモノなのか……。僕はなんて浅はかなことを考えていたんだ。


「だが、本当に魔法を使いたくないのなら、無理に使う必要はない。魔法が使えないフリをしてくれていい。それに、剣術の練習を止めるつもりもない。自由な時間を見つけて頑張って欲しい」

「え、いや、え? 父上……?」

「ただ、シュトラには一度で良いから魔法の理論を学んで欲しいだけなんだ」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ! ちょっと待って、父上! 父上は僕が魔法を使えることをご存じなんですか!?」

「んん? ああ、いやまあ、シュトラが赤ん坊の時に少し……色々あったから……」


 シュトラは絶句した。

 え、僕、魔法使ったことあるの!?!?!?!? あれだけ誓いがあーだのこーだのあったのにもうその誓い破っているの!?

 嘘だ嘘だ嘘だ。これは父上が僕を騙そうとしているだけだ。魔法学園に入学させたいからってそんな嘘を混ぜてくるなんて、たちが悪い!


 シュトラは父をキッと睨み付けた。しかし、その睨み付けた先の父はどこか遠いところを見つめていた。


 えっ? 何その顔? え、なに!? 僕小さい頃に何やらかしてるの!? こわいこわいこわい!!!


 シュトラの身体はガタガタと震えだした。


「ち、ちちち父上ーッ?」


 声がとてつもなく上ずる。

 な、何、この、震えは!? 身体の震えが止まらないッ! 何かとてつもない不安と後悔の念が湧き上がってくる。何故だか父上がとてつもなく怖い! わ、分からないけど、身体は何か今の僕が覚えていたことを覚えている気がするッ。とにかく謝らないと!!!


「あのッ、あのねッ、ごごご、ごめッ、ごめッ、んなしゃいッ!」


 そんな状態のシュトラを見た父が、いつも穏やかな顔を更に穏やかな、まるで菩薩のような表情をしだした。


「大丈夫だよ、シュトラ。大丈夫。怒ってないから、僕の膝の上においで」


 足が震えて父の元に行けないシュトラを見た父は、強引に連れてきて膝の上に乗せた。そして、シュトラは頭を撫でられる。

 その手には愛情と、ちょっとした……恨みが籠もっているようにシュトラには感じられた。

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もう魔法を使わないと誓った元天才魔術師 むつね @Kagamishio

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