第4話

「ぼ、ぼ、ぼ、僕が魔術師として学園に通うんですか!? 父上!」


 あのいけ好かない男に会った日の夜のこと。

 シュトラは夕食を終えた後、父に執務室へと呼び出された。

 そして、来月から王都にあるエアハーベン学園の魔術師科に通うよう言い渡された。実にダサい名前の学園だ。


「しかも今日、屋敷に来ていたあの男とバディを組めと!?」


 シュトラと同じように机を挟んだ向かい側のソファに座っている父は、子供を諭すように優しくたしなめてくる。

 父の名前はヨーテン・ヴェルティヒカ。シュトラと同じプラチナブロンドの髪を持つ四十歳の男だ。性格は基本温和で優しい。垂れ目がちな目はそんな性格にピッタリ合致している。ただ頑固なところがあり、一度決めたことはなかなか変えようとしない。


「シュトラ。あの男じゃない。アオ君だよ」

「父上! あんな男の名前なんて覚えたくもありません! バディを組むなんてもっての外です!」


 実にダサい名前学園にはバディ制度というものがある。それは、騎士科と魔術師科で二人一組のペアを作り、それぞれの専門科目以外の授業を共に受けさせるというものだ。しかも、寮も同室にさせられる。


 あり得ない!!! あんな男と同じ部屋で寝ろと!?!? というか、そもそも学園に通うのが嫌だ。僕は魔術師じゃない!!!


「というか、そもそも学園には十五歳になってから通うのが通例なのではないですか?」

「まあそうなんだけど、別に十五歳未満は入学出来ないという規則もない。シュトラは魔法は出来ないが、その分頭は良かっただろう? 学力的には問題ない」

「学力的には問題ない、じゃありませんよ、父上。魔術師的には問題あり大ありでしょう!?」

「……そこは金でどうにかする」


 父はシュトラからサッと目を逸らした。

 そんな父を見て、シュトラは微妙な気持ちになった。


「だったら騎士科でもいいじゃないですか! 何でわざわざ魔術師科なんですか! 僕は騎士科がいいです。騎士科であれば喜んで学園に通います! 父上も僕が騎士を目指しているのをご存じでしょう?」


 父もシュトラが毎日のように剣の素振りをしているのを知っているはずだ。

 シュトラの夢は、騎士になること。ヴェルティヒカ家の生まれだからといって、全員が全員魔術師になる必要はないはずだ。


 父はシュトラの言葉を聞いて再び顔を逸らした。そして、何か言いにくそうに歯がみする。


 そうだろ、そうだろ? 僕の正論に何も言えないだろう? 父上もきっと深い理由はなく、魔術師の家系だから伝統に則って、僕を魔術師にしたいだけなんだ。ただ少し頑固なところがあるから、意固地になっているだけなんだ。

 だから、ここで決着をつけよう。僕が産まれてから続いているシュトラ・ヴェルティヒカが魔術師にするかしないか問題を!


「父上、そろそろ……」


 折れてはどうですか? と、言おうとしたところですっと歯がみしていた父が話し出した。今日はなんかこういうの多いな。


「シュトラ。これは今まであまりにも言いにくくて、言えなかったことなんだけれど、心して聞いてくれ」


 父は瞳の奥を揺らしながらこちらをじっと見つめてくる。


「え、あ、はい……」

「本当に、本当に、心の準備は出来ているか!?」


 な、何をこれから言おうとしてるんだ、父上は。いつもぽんやりしている父上のこんなに真剣な表情は見たことない。

 シュトラは喉をゴクリと鳴らし、真剣に頷いた。


「あのな、シュトラ。君の剣術は下手すぎる」


 父の言葉をシュトラは一瞬、理解出来なかった。

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