第3話
「お前、信じらんねぇくらい剣下手だな」
夢中になって剣を振り回していたシュトラは、今までなんの気配もなかった背後から唐突に声をかけられて、跳ね上がるほど驚いた。
そしてその次の行動は、前世の記憶が反射的にシュトラにさせたものだった。
背後を取られた。危険を排除する為に、身体は動く。足を背後の人間の方に一歩踏み出し、手に持った木刀を横薙ぎに一閃する。
この動きには、何の迷いも躊躇いもなかった。自分の身を守るための、今できることの中での最適解。
しかしそれは、その男によって難なく避けられる。
「へぇー、反応は悪くねぇな」
一歩下がるというシンプルな行動だけでシュトラの剣を避けた男は品定めするような目でこちらを見る。
黒髪に深海のような深く青い瞳。すらっとした長身に、程よくついた筋肉。スピード型の剣士か?
切りそろえられていない毛先に、寝癖でボサボサな髪型。来ている服もサイズ感があっていない。
誰だこいつ? 不法侵入者か? それにしても上から目線で、癇に障るやつだな。
「だが、遅いわ、力弱いわ、剣の振り方がなってないわで、下手すぎ。え、なんで、剣やってんの? どう見ても向いてねぇじゃん」
「なっ……! な、なんで初対面の奴にそんなこと言われなきゃならないんだよ。てか、お前誰なんだよ!!!」
「あ……、俺? え、まだ聞いてねえの? あー、そー。じゃあ、うーん、えー……客だ」
男はしばらく考えこんだ後、神妙な顔つきで答えた。
「客……? 僕は今日、客人が来るなんて話は……」
聞いていないぞ。と、言おうとしたところで話をかぶせられた。なんて強引な奴だ。もしかして、僕の話を聞いてないのか?
「そういうお前は、あれだろ? ヴェルティヒカ伯爵家の三男のシュトラとかいう奴だろ?」
「な、なんで僕の名前を知っている!?」
シュトラの反応を見て、男はため息をついた。
「やっぱりそうか。お前あのシュトラ・ヴェルティヒカか」
「あの……?」
「あの魔術の名門ヴェルティヒカ伯爵家の本筋の産まれでありながら、魔法が使えない落ちこぼれ。そのくせワガママで、傲慢不遜で、意地悪な典型的な貴族の坊ちゃん」
「な……な……」
なんだその僕のイメージは!?!?!?
た、たしかに、魔法は使わないし、すすす、すこーしはわがままな部分もあったし、貴族っぽく振る舞ったこともある。
だ、だって、父や母はいつまでも僕に魔法を習わせようとしてくるし、兄や使用人達は魔法を使わない僕を見て、笑いものにしてくるし、ムカついたんだ! 年相応に反抗心を抱いたってしょうがないだろう!?
「俺はお前みたいなのが大っ嫌いなんだよ。実力もないくせに、産まれた家が力持ってるってだけで威張って天狗になってる奴。というか、お貴族全員が大っ嫌いだ。ぶっ殺してやる」
男は物騒な顔つきで笑っていた。
うわー、この人ヤバい人だ。絶対近づいちゃいけない人だ。前世の記憶がそう言ってる。
シュトラはゆっくりと男から距離を取る。
「あ……」
男はシュトラがいる方向とは別のどこか一点を見つめて声を漏らした。
屋敷の玄関ホールの方向か? なんか、そっちの方向が騒がしいような。
男はシュトラに向き直ると、馬鹿にするように鼻で笑った。そして、じっと見つめてくる。
「俺はお前が何をしようが、どうでもいい。誰をいじめようが、成績が悪かろうと知ったこっちゃない。戦力にならなくったって問題ない。最初から俺一人で勝つつもりだからな。だが……」
男はそこで言葉を止めると、シュトラの方に高速で歩み寄り、胸ぐらを荒々しく掴んだ。
「足だけは引っぱるなよ!」
鼻先がくっついてしまうかと思うほどに、顔面が近づき、もの凄い眼力で睨まれる。
しばらく睨まれた後、シュトラは解放された。男は玄関ホールの方に向かうと、父と共に入り口から出てきた男の方に走っていった。
あ、そういえば僕、いつも客人が来るなんて連絡貰ってないや。
シュトラはヴェルティヒカ家の馬車で帰っていく男と客人を見ながら考える。
ーーーいったいあいつは何を言っていったんだ?
意味を分からないことをうだうだ言いやがって。あれじゃまるで僕とあいつがこれから一緒に学校に通うみたいな言い方じゃないか。いや、まさか……。
まあ、父がわざわざあんな危ない男に僕を近づけるなんてことするまい。でも、なんか嫌な感じするし、今日の素振りここまでにしよう。
シュトラは自室に戻ることにした。
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