第2話
シュトラは屋敷の庭に出て、剣術の素振りをしていた。十二歳という年齢を考慮しても、小柄で華奢なその身体には全くもって剣が似合っていなかった。剣を振るというよりも、剣に振り回されていると言った方が正しいその素振りは実に危なっかしい。
シュトラは産まれた時から魔法が嫌いだった。魔法を見るだけで鳥肌が立ち、不快な気持ちが湧き上がる。
自分でも何故こんなにも魔法を嫌っているのか、戸惑っている部分もあった。しかし二年前、突如シュトラの頭の中には自分とは全くの別人の記憶と感情が流れ込んできた。それをシュトラは自分の前世なのだと理解した。
流れ込んできた記憶も、感情も、壮絶なものだった。戦争で血にまみれた若き天才魔術師の後悔と懺悔の記憶だった。
まだ幼いシュトラは、その流れ込んできた過激な記憶と感情に我を忘れ、暴走した。
次に目を覚ましたシュトラは、首に包帯をグルグルに巻かれた状態で、ベッドの上に寝かされていた。
そして、冷静になって考えた。
やはり僕は魔法を使いたくないと。
前世の妹への誓いもある。こんな私に魔法を使う資格なんてないとさえ思う。しかし、何よりも怖いんだ。辺り一面ドロドロでグチャグチャな血と肉塊が混じり合うあの光景が。魔法を見るとどうしても思い出してしまう。あのむせ返るほどに鉄の臭いにまみれた地獄のことを。
だからシュトラは、魔術師になることを全力で回避する為にその日から行動し始めた。
貴族の三男の進む道と言えば、騎士になるか、魔術師になるか、どこぞの貴族の婿養子になるかの三つだ。
魔術師にだけは絶対なりたくないし、婿養子になれるかどうかは運だ。そんな不確定なことに期待をするのはなしだ。
そして残されたのは騎士になるという道。
シュトラはもとより体格に恵まれておらず、身長は低いし、筋肉もつきにくい体質だ。剣術への才能やセンスといったものも持ち合わせていない。それに、ヴェルティヒカ伯爵家は魔術師一家。剣術の師範になれる人も、剣術を身につける為の環境も何もない。
剣士になるという道はとても険しい。
「だけど、僕は剣士になる!」
魔術師にならなくてすむのなら、どんな辛いことにでも耐えてみせる。
シュトラは剣を振り回し、ヘトヘトになりながらも意気込んだ。
気お取り直して素振りを続ける。
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