雪音さんのエビフライ、ひなちゃんの「黒酢の顔」(一人称視点/薫)

 目を覚ました足取りで、トイレを済ませて台所へ。

「ふあぁ……雪音さん、おはよう」

 おはよう、と言いつつもう夕方なのは承知の上。徹夜作業がノって、半日過ぎたら電池が切れて――仮眠をとったらまあ夕方だ。……昼夜逆転レベルの時間じゃなくてまだ良かったとは思うけど。

「ふふ……おはようございます、夕方ですけど。そろそろご飯ができますから、もう少しだけ待っててくださいますか? お腹空いてたらそこの揚げ物、一個つまんでいいですよー」

 一口サイズのエビフライ……そしてオニオンリング。大きいのもいいけど、このサイズならひなちゃんでも食べやすそう。

「ありがとう……じゃあエビもらおうかな、いただきまーす」

 衣サクッと中身ぷりぷり――歯触りと食感が良い。噛めば噛むほど旨味がじゅわっと……。

 雪音さんの料理は本当に美味しい。今日みたいな日の夕飯は特に――疲れてる時に食べる温かい食事は格別だし、それが誰かと一緒に食べるものになるならおいしさだって増すわけで。

「……雪音さん、なにか手伝うことある? お皿出しとくとか、野菜洗っとくとか…………」

「うーん……じゃあ、リビングでひなちゃんと待っていてもらえますか? 暇を持て余していると思うので…………」

「りょーかいでーす」


 ひなちゃんは――ソファーの上でうつ伏せになってるな。

「ひーなちゃん」

「……あ、ごしゅじんさま!」

「教育テレ……じゃなかった、Eテレ?」

「うん、『天才てれびくん』見てたの!」

「そっかー、この番組も長いなあ……」

 膝の上に乗せて頭を撫でれば、柔らかい髪が気持ちいい。癒される……。

「えへへぇ……。――あれ? ごしゅじんさまねむい?」

「ん、たくさん寝たから大丈夫だよ。まだ眠そうに見えた?」

「うん、ちょっとねむそうかも。あと、いつもより元気ないかも……?」

 そんなにわかりやすい顔をしていたのか。たしかに夜から昼までずっと作業に没頭していたし、5時間程度の睡眠じゃ体力全快とはいかないか……オレもそろそろ若くないよなあ。

「……ひなちゃん、ご飯食べたらお風呂行かない? おっきい銭湯。もちろん雪音さんと時雨も一緒に」

『ぱああっ』と擬音を書き足したくなるような笑顔。……この子は本当に表情が豊かな子だ。見ているだけで幸せになる。

「やったー! ひなね、おふろあがったらビンのぎゅうにゅうのみたいな!」

「いいよ、みんなで一本ずつ飲もうか。……あ、でもこないだ見かけた『フルーツ黒酢』とかいうのも気になるな…………」

「くろず?」

「うん、お酢――すっぱいやつ。りんごとか、ブルーベリー味の……ひなちゃん飲んだことない?」

「あ! ひなね、まえにおうちでのんだよ! りんごの! ふつうのジュースとちがってね、すゅっぱー……ってなったよ」

「ふふ……すごい伝わってきた。…………ひなちゃん知ってる? お酢ってね、疲れに効くんだよ」

「そうなの? ごしゅじんさまにぴったりだね!」

「そうだね……――お風呂入って黒酢飲んで…………マッサージチェアも試しちゃおっかな。その後は……あ、自販機でアイス買っちゃお」

「アイス!!?」

「いつも通らない方の出口に実はね、あるんだよね……」


🍤 <このあとめちゃくちゃいただかれた

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