第3話

「やった!」


 高校の合格発表で自分の番号を見つけ、俺は思わず声をあげた。同じ高校の合格発表。この張り出されている合格者の中に、小宮さんの番号があることも見つけ出した。まるでクラス発表の時にピロティで、張り出された紙から誰にもバレずに小宮綾こみやあやを探した時と同じだった。


 昨日の夜、俺は小宮さんに初めてRINKを送った。


《 明日、合格発表だね 》


《うん、二人とも、合格できているといいね! 》


《うん。もしも、二人とも合格してたら、約束覚えてる? 》


 そのRINKを送る時、僕の指は震えていた。ずっと小宮さんは僕のことを避けているように感じてきたからだ。もし、このメッセージを送って、「ごめん」と帰ってきたらどうしよう。僕はそのメッセージを送るのにずいぶんと時間を使った。でも、小宮さんからの返信を何度も見るうちに、小宮さんはまだ僕のことを嫌いじゃないような気がして、僕は意を決して送った。


《うん、覚えてる。私の番号は804だよ》


 小宮さんからそう返信が来た時、僕の番号も教えたから、きっと小宮さんはこの会場のどこかで僕も合格したことを見つけたはずだ。


 僕は急いで小宮さんの姿を探した。あちらこちらで「やった」「おめでとう」の声が聞こえる。時折涙を拭く人や、子供の背中をさするおばさんを見かけたけれど、小宮さんの姿が見つからない。俺は母さんをほったらかして小宮さんの姿を探した。







「大地君」





 振り返ると、そこにはいつものメガネ姿で髪の毛を下ろした小宮さんが立っていた。


「小宮さん! 良かった、良かったよ俺、受かってた!」


「うん、見たよ。おめでとう!」


「うん、小宮さんもおめでとう!」


 微妙な空気が一瞬流れた。胸の鼓動が高鳴り始めているのは、走り回って小宮さんを探したせいじゃない。やっと、やっとこの時がきた。長くて苦しい受験勉強を抜けて、誰にも言えない恋にやっと終わりを告げる時がきた。


 俺は、小宮さんに近づいて、小宮さんが好きだと言った。


「私も、ずっとずっと、最初にあった時から、大地君のことが好きでした」


「「付き合ってください」」


 小宮さんは泣いていた。俺も、胸が苦しいくらいに熱くて、涙が出そうだった。もう、誰にも内緒じゃない。小宮さんは、俺の大好きな彼女になった。












――三年後





「嘘だろ……?」






 母さんの小説が大ヒットして映画化されることはある。それは驚くことじゃない。けれど、母さん、これは一体!?


「ね、大地君、この映画めっちゃ見たいんだ。だって、大好きな和山きょうさんが原作のラブストーリーなんだよ?」


「う、うん……ちょっと、考えさせて……」


 俺の彼女の小宮さんがスマホで見せてきた映画のタイトルは、『 隣の席の読書好きな彼女が大好きな僕と、それを知らない君 』だった。小宮さんは気づかないのだろうか、それとも気づいていてこれを見たいと言うのだろうか?


「ねね、大地君、これって私たちみたいだよね!原作も読んだけど、本当私たちみたいなお話なんだよ?」



 多分小宮さんは気づいていない。

 僕のお母さんがその原作者「和山きょう」なんだと僕は言っていないのだから。





 やっぱり、僕の恋は母さんだけには言ってはいけない。

 絶対に。









 

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二人の恋のその先に 和響 @kazuchiai

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