交差点2
世界を白と黒が支配したかのような、とある雪の日の夜。
アスファルトとそこに引かれた白い線では、寒々とした景色に色を加えることなどできないだろう。
だから人々は寄り添って暖を取る。
手元、首元、それに足元。あるいは耳や頭に色を添えて、世界を彩る。
「クリスマスどうする、
「えー、どうしたいー?」
高校生らしきカップルが、来る聖夜に向けて作戦会議。
そのすぐそば。
「お父さん! 見て見て!」
女の子が嬉しそうに、父親見せたのは真っ赤な手袋。手首のファーがかわいらしい。
しかし、父親は適当に手で小さな頭をなでるだけで、目線は先の高校生たちに向けられている。
「思い出すな」
「え? 何か言った?」
小さな夫のつぶやきに答えたのは、すぐ隣にいた妻。
彼女がその目線を追って行けば、仲睦まじい若者2人がいる。
「あー……うん。私たちは結局、大学生までかかったもんね」
「汐里が嘘をつくから……」
「む、それを言うならヒロ君が鈍いのも――」
「お父さんっ! お母さんっ! むー……!」
「ごめん、ごめん」
そろそろ娘の膨れた頬が限界を迎えつつあったため、父親がそっと抱きかかえる。
「何も知らずに汐里の嘘の巻き込まれた鈴木のキレようは、もうな」
「悪いことしたよね……」
「そうだな。あと、
「ね、まさかだったよね。でも、私たちのおかげでもあるかもよ?」
「巻き込んだせい、とも言えるけどな」
冬空に残した白いため息とともに、彼は信号を見上げる。
身長された信号は、赤。
互いに互いを大切に想い、その幸せを願うからこそ、誰にも言えなかった恋心。
時間とともにもつれにもつれた勘違いは、ほどくのにも同じかそれ以上の時間がかかってしまった。
恋愛の形も多様化しつつある現代。
言いにくい恋はあっても、言えない恋——言ってはならない恋など存在しないのかもしれない。
だからもし、誰にも言えない想いがあるのなら。
それはきっと、互いに相手のことを何よりも、誰よりも大切に想っているからなのだ。
信号が変わり、カッコーが無く。
雪に足を取られないよう、少し歩く速度を落とした夫。
妻もそれに合わせるように並び、肩をくっつける。
「早く帰ってお隣同士、クリスマスの予定詰めないとだね、ヒロ君」
「クリスマス!」
「そうだな。
腕の中で喜ぶ娘に、精一杯、言い聞かせる父親。
「うんっ! ひな、しんごくん大すき!」
元気一杯といった様子で言う娘は果たして、本当に言いたいことを理解できているのだろうか。
「まるで小さい頃の汐里みたいだな。今も、か?」
「ひどーい。……日菜、今日はパパがご飯作るって」
「えー、おいしくない……。おかあさんがつくって」
「さすがにつらい……っと、着いたな」
そう言った父親が娘を降ろし、家のカギを開ける。
「鍵、出せる? 私が開けようか?」
「あー、頼んだ」
長い長いすれ違いを乗り越えて。
「それじゃあ、汐里」
「うん! じゃあ――日菜」
「うんっ!」
娘の両手をぐっと握って。
「「ただいま!」」
いつものように、武藤大海・汐里・日菜の3人の家族が、1つの家に消えて行った。
………………
※後書きを書いた近況ノートです。興味がありましたら。
https://kakuyomu.jp/users/misakaqda/news/16817139555207010767
両想いの交差点 misaka @misakaqda
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