第3話 犯人はバーコード頭。
「そこのピンク色のジャージ、僕のクリームパンを盗んだだろ!?」
僕は扉を思い切り開けて、下品な歌を歌っている小さいオジさんを捕まえようとした。四人の小さいオジさん族は僕の突然の怒声に瞬時に姿を消す。
「逃げたって無駄だ。無事にクリームパンさえ返してくれたらそれでいい。おーい。ピンク色のジャージのオジさん、怒らないから出て来てください」
サトルも梅林先生も一緒になってピンク色ジャージに説得を試みてくれる。そのオジさんの名前がワタルだとも教えてくれた。イスの下やベッドの下をのぞき込んでも見当たらない。さっきまで握りっぺ攻撃をされていた男性と目が合う。ご愁傷様。哀れんでワタル探しを続けている僕の耳に怪しい歌が聞こえてきた。
♪───ヨーレヒヨーレヒヨーレヒホーヨーレヒホー♪───
陽気な歌と共に急に部屋全体が明るくなった。何が起きるんだ。
「マナト君、小さいオジさん族の神様の降臨です。ここに来て座ってください」
僕は何がなんだか分からないまま、梅林先生の隣に正座をして頭を下げた。サトルも、一瞬で消えた小さいオジさん族の三人も僕たちの前に正座をする。ワタルの姿が見当たらない。
「みなさん、ごきげんよう。マナト君ごきげんよう。本日は晴天なり。お仕置きタイムが終わりましたね。さて、今日は君の願いが叶う日です。十年前君の前から突然いなくなったルイさんとの再会です。これも全てワタルの働きゆえ、クリームパンの事は許してやってください。ではさようなら」
ヨーレヒヨーレヒヨーレヒホーヨーレヒホー。
「どういう事ですか! 梅林先生、クリームパンの事を許せって!」
「えっ、そっち? マナト君、今すごい事を聞かされたでしょう。ルイさんに会えるんですよ! もうこれは奇跡です! 神様に不可能はないんですよ」
十年前に亡くなったルイに再会出来るだと?! そんな事があるわけないじゃないか! そんな奇跡があるなら今、ここにルイを呼んでくれよ。
「る、るーるるるるるるるるルイ!」白いモヤの中からルイが現れた。
僕は目の前に現れたルイを見て声が出ない。ルールルルールルルル。
「マナト、会いたかった。ずっと会いたかった。今日、あなたが私の事を好きだって言ってくれたおかげで、神様が再会を許してくれたの。マナト!」
「ちょっと待ったー! ルイ、君の肩の上にいるその狐の顔真似しているピンクジャージのオジさん捕まえていいかな。キタキツネのフリをするんじゃない!」
僕はワタルを両手でつかんだ。なんか湿っぽい。頭だけじゃなく全身がぬちゃってしているせいか、するりと抜けてしまった。トコトコ逃げた。
「マナト、ワタルをいじめないで。ワタルが私の復讐を果たしてくれたの」
「どういう事?」
「私、ママの元彼に怯えてたの知ってるでしょ? 梅林先生は私の仇をとるためにスモールG探偵事務所に成敗の依頼をしてくれたの。小さいオジさん族の裏の仕事らしいわ。ワタルは自分の身体を犠牲にしてロイコクロリディウムをその男の脳に入れて、ここに誘導してお仕置きしてくれたの」
ルイはワタルが鳥の代わりの役目をしたと丁寧に説明してくれた。ロイコクロリディウムに寄生されたカタツムリを食べたらしい。その先はもういい。男の口にガスではない方を入れたらしい。そこは感謝しようと思った。
───クリームパンを取り返せないのは残念だが、ルイに再会出来た事はすごく嬉しかった。しかし疑問が残る。なぜ赤いエプロンの持ち主、ワタルが犯人なんだろう。僕の疑問に名探偵サトルが答えてくれた。
「ワタルさんはいつもエプロンをしているんです。甘いものを自宅に持って帰るため、いつもポケットにコン◯ームを入れています。その中に詰め込むんですよ。ワタルさん、そうですよね? 隠れてないで謝りなさい」
僕の大事なクリームパンを入れたコン◯ームをサンタクロースのように担いでワタルが出て来た。
「ワタルと申しやす! すんまへんでした。返しますさかい許してな」
「そんなもん、返されても困る!」僕は断固拒否して笑った。ルイも大笑いした。
もうクリームパンより大事なものが帰ってきたから幸せだ。
完
ロイコクロリディウム 2 星都ハナス @hanasu-hosito
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