1-2-3『マイフェアレディ』II

「それでは、何をして遊ぼうかしら?」


「姉様の創作昔話が良いですわ」


 私の創作昔話とは、ただ地球の童話とか御伽噺や落語を知っている範囲でこの世界でも通じる感じで、お話にする物だ。

 もちろん私も竹取物語や古典落語を一字一句間違えずに誦んじる事は出来ないので、ところどころニュアンスが適当である。


 まぁこの子達が喜んでくれてるしコレで良いかなって。


「では、少々はしたないかも知れないけれど、お昼を食べながら、お話しましょうか」


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「傾城に 誠なしとはが言うた? これが紺屋高尾の由来話」


 昼食の軽食を食べながら、落語の紺屋高尾を噛み砕いてそれっぽく話してみたが、大人であるメイド達の感触は良いが、三歳児には難しかったのか?

 メラニー達は頭にハテナを浮かべている。


 流石に紺屋高尾は難しかったか。


「お嬢様。流石に3歳児に花街の話は如何なモノかと……」


 マリーがそう遠慮がちに言う。


 しまった、お母様に怒られるかも知れない。


「ま、まぁメラニー達には少し難しい話だったみたいだし大丈夫よ」


 マリーに物凄く怪訝な眼で、見られたけれど、キニシナイ。キニシナイ。


 「ヴィクトワールお嬢様。アンダーソン様とアンヴィル工房のロイ・アンヴィル様、キース・ヘイウッド様がお見えですが如何致しましょうか?」


 そんな中、ドアがノックされ、アンダー・バトラーのヒリス・エンビクがやって来る。


「要件は何かしら?」


 その三人が来たと言う事は前々から頼んでたアレが完成したのね!!


「はい。御注文のお品が完成したので御目通り願いたいと」


 今にでも走って玄関に向かいたいが、今日は生憎とても重要な賓客が来客される日。

 一旦はやる気持ちを落ち着かせよう。


「分かったわ。今日は例のお客様のいらっしゃる日なので、裏から入って貰って頂戴。ヒリス。今日開いている部屋はあるかしら?」


「かしこまりました。そうですね……。アキ様の執務室でしょうか? あそこなら、広間や談話室などから離れて居ますし、本日はアキ様もバルドヴィーノ様の名代として、お茶会に御臨席なさるとの事ですので、許可を得れるかと」


 御義父様の執務室か。確かに広間や談話室なんかとは逆方向だし、御母様やアストリット様達にバレ無いように密談するには最適ね。


「御義父様の執務室ね。分かったわ。御義父様の許可がおりたら、執務室で調整して頂戴。最悪、騎士隊の宿舎の執務室でも良いけれど。どうせ訓練場の方に向かう事になるだろうし」


「かしこまりました。至急、アキ様に使用許可を取って参ります」


 ヒリスは一礼すると、部屋を出て行った。


「お嬢様。例の品が完成したのでしょうか?」


「おそらくね。さて、試して見たいけれど、今日は流石に怒られるわよね?」


 マリーにそう尋ねられて、少し苦笑いを浮かべながらそう答える。


「さて、メラニー。ヨウコ。残念だけど、御姉様は少し用事が出来たので、御部屋に戻って御留守番して欲しいのだけれど、大丈夫かしら?」


「えーヤダまだ遊びたいー」


「姉様。姉様。私達も付いて行っちゃダメ?」


 そりゃまぁ折角楽しく遊んでたんだから、もう終わりと言うのは三歳児達にはご不満ででしょうとも。


 まぁ、連れて行っても問題ないとは思うんだけれどなぁ。


「ええ。それじゃ、御姉様がお話している間、良い子に出来るかしら?」


「「うん!!」」


 はい。良いお返事でーす。

 私は、二人の頭を撫でながら、そう言って、二人に言って聞かせる。


──────────────────────

 御義父様の許可が出たので、御義父様の書斎に向かうと、先に先方が到着していた。


「お嬢。お時間取ってもろて、えろうすんません。会頭や大奥様がお忙しい時に伺ってもうて」


 この、前世で言うコッテコテの関西弁を使う、ポニーテールの金髪に胡散臭い笑みを湛えた、狐目のエルフはヘルベルト・フォン・アンダーソン。

 我がフェルリ商会が誇る、遣り手の商人である。

 彼が担当するのは、主に武器弾薬類。

 つまるところの武器商人である。


 ちなみにアンダーソン家は我がフェルリ家とも縁戚関係にあり、先祖を辿れば、フェルリ商会創業時のメンバーの一人であり、現在では長年の嫁ぎ嫁がれの歴史の中で、分家筆頭格の一つとも言える家柄である。

 王国爵位はアヴラン子爵の爵位を頂戴している。


「先触れは出て居たけれど、それも屋敷内だけだし、何時もの御客様だから、貴方達は悪く無いわよ。それで、アンヴィル工房の方々と一緒と言うことは、が完成したのね?」


 と、私はアヴラン卿の隣に座る、癖っ毛と言うには豪快過ぎる髪型の赤髪に黒い瞳のドワーフ族の男性へと目をやる。

 ドワーフ族らしく小柄だが、筋骨隆々。

 顔も髭面で眉間に年輪の如く深い皺が刻まれた、如何にも一癖も二癖もありそうな職人と言った印象を浮かべる。


 彼は、王室御用達の名工、アンヴィル工房のロイ・アンヴィル師である。


「あぁ。言われた通りのモノは出来たが、最初あまり聞かねぇ形状だなぁと思ってたら、由来の代物じゃねぇか。そんな代物中々手掛けるこたぁねえもんだから、四方当たり尽くした結果、なんとか形になったが、まぁ珍しい仕事だったなぁ。いい勉強になった」


 この世界で、地球世界からの所謂異世界転移者は、と言われ、テンプレなチート能力を持つ人間もいれば、この世界にはない独自の技術を持って居る為、チーターで無くとも、重宝がられ、各国の保護対象に指定されている。

 もちろん本人が望めばハンター等の自由民にもなれるみたいだが。

 地球世界以外からの来訪があるのかはわからないけど、中々どうして、異世界転移を果たした人間と言うのは結構居るもので、歴史に名を残した勇者だったり、向こうの文化を伝えた各種知識人、自由を謳歌した歴史に名も残らないハンター達等多岐にわたる。

 多いとは言っても、人生で一度でも知り合いになれれば良い方と言われる程には希少な存在ではあるのだが。


 ちなみに私の場合、異世界転生者なので、転移者と違って、本人が申告でもし無い限り、誰も異世界から転生したってバレては居無い。


「しっかし、お嬢は何処でこないなモン見つけて来たん?」


「本で読んだのよ。これが使えれば面白そうだなって」


 私が、名工に地球世界の何を再現して貰ったかと言えば、ズバリ和弓だ。

 地球でも、特異な形状をした和弓。

 やはり、あんな大きさの長弓はこちらの世界でも珍しいようで、しかも作り方も少し特殊と来たものだから、中々大変だったようだ。


 こう見えて、叶堂紫苑は学生時代弓道部だったので、経験者なのである。

 いや、実際は幽霊部員で、大会の時の人数合わせとか以外は、殆ど放課後はギター片手にバイト先でもある、地元のライブハウスに入り浸ってたんだけれど。


 一応、父が機動隊員の警察官だった関係で、幼い頃から剣道や弓道、派生して地元の古武術道場にも出入りしてたから、一通りの経験はあるのだ。

 なんか午前中にも同じ事言った気がするけど、気にし無い。

 大事な事なので二回言っただけだよきっと。

 ちなみに古武術道場の関係で、地元の神社の流鏑馬神事にも参加してたので、騎射の経験もある。


 こっちの世界に来て、祖母に色々扱かれてる中でも、年齢の割には乗馬と弓は上手い方だと思う。

 剣術は、日本式の剣道とか剣術の方は出来るけど、そもそも、日本式じゃ無いし。


 アヴラン卿には日本刀に準じる、此方の世界に分派した刀も探して貰っている。

 なんでも北方のシャーウッド王国にそれらしい武器を製造している、場所があり、普段はその美しさから美術品として扱われているが、実践用の刀もあるそうなので、取り寄せて貰った。

 流石遣り手武器商人。ツテがあるらしい。


 やはり、稽古用の木刀を作ってもらって練習しよう。

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Rosa als Llavis 〜乙女ゲームの悪役令嬢の親友やります〜 斎院原鏡花 @SG_Sayahara

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