6 オレンジ色の光が目に入ってくる。私は眼を閉じる。

 車をガレージに戻し、私は勝手口から家に入った。リビングのテレビはまだつけっぱなしだったが、番組の放送はもう終わっていて、どこかの都会のリアルタイムの夜景が映っていた。ダイニングテーブルの上にはインスタントコーヒーがそのまま残っていたが、冷たい泥水のようだった。

 冷えたコーヒーを流し台に捨て、薬缶で湯を沸かし、熱いコーヒーを入れなおした。はじめは一杯だけいれたが、思い直してもう一杯いれ、二つのカップをテーブルに置いた。

 体の疲れを感じていたので砂糖をスプーン二杯溶かし、暖かい湯気を吸い、もうひとつのカップから上がる湯気を見つめながら飲んだ。

 午前三時。彼女は寝室にいるはずだ。十年の間に、私は何度も彼女を傷つけ、悲しませたり、涙を流させたりもしたけれど、彼女が私のところに帰ってこないということは無かった。この時刻に彼女が寝室にいなかったことなんか、一度たりともなかったのだ。

 風呂に入って土や汗のにおいを洗い流し、バスタオルを腰に巻いて、二階の寝室へ上がる。ベッドでぐっすり眠っているはずの彼女を、すぐにでも抱きしめようと思った。髪を撫で、口付けして、いつまでも変わらず、私は彼女のものだと伝えようと思った。眼にしなくても、私には見えていた。ベッドサイドのスタンドの、ほの明るいオレンジの光の中で、黄色いパジャマの肩まで毛布をかぶり、柔らかい羽根枕に頬をうずめて、子供のような微笑を浮かべて眠っている彼女の姿が。眠っていても、いつもきちんとベッドの半分を空けて待っている彼女の隣にもぐりこんで、まず最初に、やわらかい頬に触れよう。

 階段を上がってゆく。寝室のドアは閉ざされている。ノブに手をかける。そっと回し、ゆっくりと引く。オレンジ色の光が目に入ってくる。私は眼を閉じる。

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夜走る 猫村まぬる @nkdmnr

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