汚れたポストの手袋

DITinoue(上楽竜文)

汚れた手袋の意思

 僕は、いつもより少し早めに家を出た。今日は、終わらせないといけない資料がまだ少しだけ残っている。だから、早めに出ていくことにしたのだ。


 ネットのサイトを手掛ける僕らの会社は、最近どんどん発展していっている。前までは、あまり苦労せずとも出世できたのだが、ブログサービスとホームページ作成サイトで一気に社員が増えている。めっちゃ売れてるわけだから、給料は増えるが……。社員が増えると、使えるものが増えてしまい、僕のようなしょせん、へっぽこ社員は切り捨てられる対象になってしまうのだ。


 で、今日は何とか資料を書き終えて、『週刊ブロッぶろ』というブログサービスの会社オフィシャルブログを書き終えた。僕の時は「俺のベストアルバム」というバンドのアルバムについての記事を書いたブログを特集したのだが、あまり評価が少ない。ああ、ショックだ。部長がせっかくくれたチャンスだったのに……。


 多分、新聞の夕刊が届いていると思って、蛍光灯が付いたポストに手をかける。いつも通り、新聞を取って、アパートの階段を上る……ところだったのだが。

 誰も使用者がいないポストを見つけた。まあ、それ自体は前からあったのだが、そこにかかっているものだ。ポストの投函口に手袋がかかっていたのだ。土に汚れた軍手。まあ、それ自体は何でもいいが……なんか、怖い。

 見ない方がいいな、と思い急いで階段を上った。そして、段が急な階段に転んだ。やはり、むざむざと手袋を見てしまう。今日、夢に出てきそうだ。

 もう一度、僕は階段を上った。また転ぶ。そして、手袋を見る。

 今度は手すりを持って、ゆっくり、ゆっくり汗を垂らしながら上った。それで、何とか3階までたどり着くことができた。


 次の日。朝から電話がかかってきて、知らされたことは切り捨てのことだった。もう、その間際まで来ていると言われた。まだ、うちの会社は社員が増えている。その社員は、みんなパソコンに精通している者ばかりだ。学生時代、プログラミングが少し得意だからと言って、入った僕が情けない。


 新聞を取りに行くために、ポストの前へ行く。立ちはだかるのは、手袋だ。

(新聞……目をつぶっていくか?いや、でも……)

 僕は、悩んだ。このまま、突っ切るか。それとも、新聞を取るのをやめるか。

(行こう。僕は一応……男だ)

 僕は、ポストの前に立った。その時に、冷たい空気が流れ込んできて、手袋がなびいた。それほどの風が吹いたわけではないのに。この手袋には、意思があるように見える。僕は、新聞を取る・・・・・が、楽しようとしてポストの口から手を入れたのが間違いだった。

(う……あ……)

 必死にもがく。壁を持って手を抜こうとするが、それは不可能だった。


 ――手を握るものがいる。


 気づけば、手袋が僕の手を軽く握っている。

「あぁ……」

 手袋は一気に、僕の手を引いた。

「いててててぇ」

 痛かったが、ポストに刺さってた僕の手は抜けた。やった・・・・・と思ったが、それもつかの間だった。

「いてぇぇぇ!!!!」

 投函口に手がまず引き込まれた。次に頭。痛いが、なんとポストに頭が入った。ポストの中は暗い空間。その容量で足も引きずり込まれ、暗い四次元空間に僕は落ちていった……。

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汚れたポストの手袋 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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