エピローグ

М・Ⅰエム・ワン……それがこの子の識別名だ。でも、こんなので呼びたくないよな……」

「それもそうよね……」

「“マリア”ってどうだろうか。キリストの母である、聖母マリア……ここから名前をもらって“マリア”にしよう。、聖母マリアが守ってくれるように……」

 父はそう言って、一人の赤ん坊に名前を付けた。

「マリア、良い名前だろう?」

 そう赤ん坊に微笑みかける父。  

 彼に抱かれた赤ん坊……私は、その差し出された手を握った。


「マリア凄いな!もうこんなのが分かるのか!」

 父はそう言って喜ぶ。

 私はそれが嬉しくて、たくさんのことを覚えた。

 けれど、その様子を母が見ている。

 最近、母は私を恐れているように感じる。

 きっと年齢に合わず色々なことを知っているからだろう……幼くても分かる。


「マリアはやっぱり天才だよ」

 一人で図鑑を見ている私から離れ、父はそう言った。けれど、母は「そりゃ天才に決まってるじゃない……彼女は私たちが……」と言葉を飲み込む。

 “彼女は私たちが作り出した”

 今なら分かる。そう言いたかったんだと。


 幼い日の記憶が次々に呼び起こされる。

「マリア先生?何見てるんですか?」

さ……。これしかないからね……」

 スクリーンに映し出される、幼い日の自分。

 普通の家族にあるビデオテープや、写真、アルバム……そう言った物は自分にはない。違法な研究、実験で作り出された自分を、両親はどう見ていたのか。今は知ることすらできない。

 マリアはスクリーンに映る自分に微笑みかけた。

 「辛いこともあるけど、今は幸せだよ……」と。

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変わり者の天才・夢野真璃亜の研究レポート 文月ゆら @yura7

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