失恋カルテ

@ramia294

第1話

 小さな街の診療所。

 失恋内科の専門医。


 美人の受付お姉さん。

 お久しぶりのお姉さん。

 お気の毒です、またですか。

 私の心配してくれました。


 受付番号六番目。

 私以外に、すでに五人も?

 皆さん、失恋、ご苦労さま。

 ここは、失恋診療所。

 

「お久しぶりですね、睦美さん。前回は、1年前のクリスマス。恋人たちの熱いイベント。今年も縁がなかった様で」


「先生。私って、何処か欠陥あるのかしら?今回も一生懸命に頑張ってみたけど、ゴールイン出来なかったわ」


 いつかは、ハッピーウェディング。

 私のゴールは、誰かしら?


 先生は、失恋内科の専門医。

 どんなことでもお話します。

 仕事にまじめな先生の、優しい声に安心します。

 パチパチ叩くキーボード。

 失恋カルテを呼び出しました。

 先生のパソコン。

 診療所の記憶。

 私の失恋の数々。

 パソコンさん、私を笑っているかしら?


 恋人たちのクリスマスイブ。

 私は、毎年、診療所。

 今年も治療のクリスマスイブ。


 サンタさんのプレゼント。

 私に、幸せプレゼント。

 いつも待っているのだけれど…。

 見つけられないプレゼント。


「先生。私、またまた、やけ食いしちゃった。だってお酒を飲めないし。やけ酒なんて、無理だもの。お友達の加奈子ちゃん。駅前ホテルのバイキング。一緒に、ケーキを食べました」


 私の失恋、やけ食いタイム。

 悲しい分だけ長くなります。

 今回、少し長くなり。

 私のお腹が、少しポッチャリ。

 先生、何とかなりません?


「では、これをお試しください。あなたの身体からだの新陳代謝、少し後押しいたします。これで、あなたのポッチャリお腹。元のくびれに戻ります。あなたの心の新陳代謝、少し後押しいたします。あなたの悲しい記憶の風化。少し手助けいたします」


 先生の研究。

 新しい失恋治療法。

 ダイエットマシン。

 ナノマシン。

 ATPをADPへ。

 クエン酸回路は、私の吐息。

 あなたを惑わす私のため息。

 

 使えば、私の心と身体、代謝機能が、アップ、アップ。

 お肌もツルツル、フェロモンふわふわ。

 とってもモテます。

 ダイエットマシン。

 ナノマシン。


 私のとっても悲しい持病。

『もうすぐクリスマス失恋症』

 これで、サヨナラ出来るかしら?


 治療後、初の出勤日。

 電車の中の男の方々。

 視線が、やけに熱っぽく。

 熱くて寒い通勤電車。


 お仕事中も殿方たち。

 親切丁寧、指導の数々。

 皆さん、どうかされました?


 ダイエットマシン。

 ナノマシン。

 驚く効果が、ありました。


 ステキな男性。

 たくさんの方々。

 たくさんのお誘い。

 熱い視線に、恋の予感。

 ついに、やって来たかしら。

 私の初めての…。


 モ・テ・キ。


 やっとサヨナラ出来るかも? 

 私の…。

『もうすぐクリスマス失恋症』


 でも…。

 どうしてかしら?

 あんなにたくさんのお誘い。

 熱い視線のイケメンの方々。

 私の心がトキメキません。


 恋は、私を見放しました?

 それとも…。


『もうすぐクリスマス失恋症』


 病が、悪化したのでしょうか。

 私は、あわてて、診療所。

 失恋内科に、駆け込みました。


「どうしましたか?」


 先生のいつもの声に、すこし安心。

 

「ダイエットマシン。あなたの癒しに、なりませんでしたか?」


「いいえ、先生。そうではなくて、私の胸のトキメキが…」


 その時、私は見つけました。

 熱い胸のトキメキを。

 突然、私は、取り戻しました。

 熱い胸のトキメキを。


 毎年見つけられなかった、私へのクリスマスプレゼント。

 ついに、私は見つけました。

 目の前にあったプレゼント。

 ちっとも、気づきませんでした。


「先生、私のこの病。特効薬を見つけました。きっとそれは、先生の笑顔。私の胸のトキメキをどうか受け取ってください」


 あれから、私は転職しました。

 私の職場を紹介します。


 小さな街の診療所。

 ここは、失恋診療所。

 私は、診療所のお姉さん。

 以前の綺麗なお姉さん。

 今年で、笑顔の寿退社。

 私が、後を引き継ぎました。

 私の大事な先生の、机の上の笑顔のパソコン。

 元気に呼び出す私のカルテ。

 お世話になった失恋カルテ。

 私の大事な先生が、最後の言葉を書き込みました。

 

 ゴールイン。


           おわり


 

 


 




 

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