第27話 県庁外部から進軍

 その頃、内閣総理大臣である散撒文雄は完全に放心状態だった。任期中で政権にしがみついている間に日本国内がテロに見舞われるとは思っていなかったからだった。あのパソーナの事件でも自衛隊を出動させて戦死者まで出ていたことで世論から叩かれて次は武闘派極左集団によるテロが起きたし、散撒もそこまで日本国民や国内在住の外国人が暴動やテロを起こすことは100%ないとたかを括っていたツケが回ってきたような物だった。それは政権全体にも言えることだった。

 遡って裏金問題もそうだったし日本海沿いで大震災があった時も日本国民には20万円を貸して外国には無償で国民が払った税金をばら撒いていてもデモが起きるだけでそこまで大事には至らなかった。そう、政権は国内情勢を楽観視しすぎていたのだった。

 国会議事堂や首相官邸は警視庁による厳戒態勢とも言える警備体制が敷かれており、SPや機動隊もピリピリしている。

 「この現代社会はここまで落ちたもんだな。日本が落ちぶれる根源を守らなくちゃいけないなんて俺らは正しいことをしているのかな?」

警備中の警察官が独り言を口にした。

 「どんな人間でも守るのが警察の役目さ。ここはグッと堪えて任務に集中するしかない。あまり考え込むな。偏頭痛の種になるだけだ。」

SPが独り言を口にする警察官に説いた。

 「埼玉県知事は一体何をしているのだ?」

 他の議員が怒鳴る。

 散撒文雄にとって自らが『国の宝』として受け入れた移民など外国人が無差別テロを起こしたことに関して頭が痛いが、あのパソーナ事件の時も自衛官や警察官、職員の死者も出したことでどんなに叩かれてもメンタルだけは強くとにかく任期まで内閣総理大臣を続けようとしている執念だけはどこの国の誰よりも立派だった。

 既に今回も死者が出ている。特に公職関係者が多く、おそらくこの時期に国家公務員になった者は、ほとんど後悔してることだろう。

 その頃、クルド人民革命軍の戦闘員の増援もアブナーイの退路を作る為に着々と武器や装備の準備を始める。それに対して防衛省特務情報部も強引に任務を遂行しようと強襲班の出動準備を行わせた。

 「今回ばかりは映画やゲームみたいに上手くは行かないだろう。民間人も多少犠牲になる可能性もあるがどうする?メタルソーセージ。」

バトルフェンリルというコードネームを持った犬神は金創に問いかける。

 「こっちにもそれなりの良い案ならある催涙ガスを使ったグレネードがある。人質には悪いが死ぬよりはマシだろう。発作を起こさせたらごめんなさいってことで。」

金創はプラモデルの箱に入れてある催涙ガスグレネードを犬神達に見せた。

 「そいつは名案だな。ってお前マジでサイコパスだな。いくら特殊訓練受けてないとはいえ…」

犬神は金創の無情ぶりに絶句しかけている。

 それからしばらくして特務情報部は強襲班をバックアップの役目をさせて金創とトルコ国家情報機構の要員と共に現地偵察に向かった。しかし、時既に遅しと言わんばかりに激しい銃撃音が聞こえた。私服姿の武装集団がAK74自動小銃で機動隊や後続のSATやRATSの隊員を不意打ちで襲撃して映画でしか見たことがない銃撃戦を展開した。

 「マジか…先手をつかれた。外部にいる敵を排除しろ。奴ら戦争を起こす気か。」

金創はメインウェポンとなるHK416を構えて単発で正確にクルド人民革命軍のメンバーを狙撃していく。

 トルコ側要員も応戦して次々に敵を倒していった。しかしクルド人民革命軍のメンバーだけではなく日本社会解放軍のメンバーもいるし何よりも人数が多い。

 勝算が合わないと危惧した犬神が同じ強襲班要員を動員して加勢した。全員、警察特殊部隊に近い装備に海外から入れた防弾盾を頼りに隙間からMP5やM4A1自動小銃を撃ちながら蹴散らしていった。

 一通り制圧すると安全を確認した上で死体確認をしていく。瀕死で最後の力を振り絞ろうとする日本人メンバーの頭を金創が9ミリ拳銃2型で撃ち抜いて葬った。

 他にも機動隊や警察の特殊部隊の死体もあり多少なり同情心も出たが構ってる暇はない。金創は物陰を移動したながら県庁の外側の安全を確認をした。

 一方でアブナーイと宇野も外側で銃撃戦が始まったことに銃声で気づいた。

 「それぞれ銃声が違うぞ。自衛隊がそんなことで出動はまずはないとしていや、特殊作戦群ならあり得るか…別班も目立つようなことはするまい。それなら奴らは何者だぁ?」

アブナーイは外を覗く。

 ちょうど天気も悪くなり、雨が少しずつ降り出した。特務情報部にとって雨はある意味助かる。雨天時は足音を決してくれる上に雫で多少なり視界を妨害できると考えていたからだった。

 アブナーイは過去に地獄を生き延びた経験から不穏な空気と気配を察知していた。

 「SATや県警特殊部隊でもなければ陸自の特殊作戦群でもないし、一体奴らは何者か?ドラマでも話題になった別班でもないようだからまさかとは言わんが政府の秘密兵器がおいでなすったか?」

アブナーイは刃が派手なサバイバルナイフを手にとって刃先を気配を感じた方向を眺めた。

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防人の皆さん。この国は詰みました。 ピンクッティ @pinkktty

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