第5話 面会
〜Side 少年〜
「僕に面会したい人・・・ですか?」
雲が点々と残り、太陽の光が心地よく降り注がれる天気の中、朝食を食べているときにハイネス先生から唐突に話を切り出された。
ちなみに今日のご飯は何やら匂いに癖のある食べ物である。
「そう。君を発見し、ここまで連れてきた人物でもあるよ。」
「へ〜 まあ発見されてなかったらここまで来れないですもんね。でも何でこのタイミングに?」
「面会人の予定が立て込んでいたらしい・・・としか言いようがないかな」
「ふーん。そういうものですか」
面会して何を話すんだろうか。やっぱり自分についてのこととか聞かれちゃうんだろうか。でも結局何1つとして思い出せてないからなぁ。
「あ、そうそう。少年自身の事情については面会人側にも通達しておいてあるから」
「何と手際の良い・・・でもプライバシー的にどうかと思いますけど?」
「個人情報らしきものも碌にないだろう?」
「・・・それもそうでしたね」
自分の記憶どころか名前すら思い出せてないから情報すら皆無でしたね。
「あ、でも僕ってどこで見つかったんですか?」
発見場所って結構重要だと思うんだ。
「やっぱり定番どころで路地裏で倒れてたりとか?」
「いや、ダンジョンの中で見つけたらしいよ」
はへ?ダンジョン?
「正確にいうと、モンスターの腹から」
モ、モンスターの腹から?桃から出た桃太郎。モンスターから出たモンスター太郎?
「もっと正確にいうと、モンスターから出てきたマナシードから出てきた」
マナシードの中からなら、マナシード太郎?いかん想像が虚無るぞ。
「少年、さっきからおもしろ・・・おかしな顔をしているぞ」
「いや初めて聞いた話なんだから驚きますって!?というか人の顔見て笑わないでください!!」
先生め、いつまで経っても懲りないな、全く。
「はぁ・・・でもダンジョンの中から連れ帰るなんて随分胆力のある方なんですね。」
「それには同意するね。だけど巡り巡って私に子供のお守りが回ってくる羽目になったんだけどね?」
「お守り?僕あまり先生からお世話されたことないんですけど・・・」
「いやいや、私の非常に便利な発明品たちに手助けしてもらっているだろう?実質的に私が世話しているに等しいだろう?」
「いや副作用に巻き込まれる側だから被害者だし」
確かに便利だけど、副作用のせいで不便になっているんですよ!
「素直じゃないねぇ・・・とりあえず、あとで呼びに来るからその時までに用意しておいてくれ給え」
「はーい」
少しの不安はあるけど、ここは流れに身を任せることにしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食事が終わって、1時間ほど時間が経って、いよいよ面会の時になった。
ハイネス先生先導のもと、ついて行くと少し大きな部屋に着いた。
最初に目に入ったのは、部屋の中心にある大きい机1つと椅子6つ。そして・・・
机を挟んで僕たちの向かいにいる、3人の男女だった。
「こんにちは」
3人の真ん中の長身のお姉さんが挨拶してくれた。
「こ、こんにちは」
あ、少し吃っちゃった。初めて先生以外の人に挨拶したから!!美人さんだから吃っちゃったわけじゃないんだからね!?
「お、美人相手に緊張しているのか少年〜?ングぅ」
隣の空気が読めないダメ先生には顎下から手を押し上げて黙らせておいた。
「隣の人にはお構いなく」
「あ、あはは・・・とりあえず座りましょうか」
「そうしてくれると助かります。お2人もどうぞ」
「お、そうか、じゃ、失礼するぜ」
「・・・失礼するわ」
お姉さんの隣に居た2人も目の前の椅子に座る。
「あ、先生は地べたに正座でもしててください」
「えっ」
「冗談です」
いつもからかわれてるからお返しも忘れない。
部屋に面会予定の一同が集ったので、面会開始です。
「まずは自己紹介からしたほうがいいかしらね」
「そうですね。お願いします」
最初に切り出したのはやはり、真ん中のお姉さん。
「私の名前は『エルナ』。この3人で組んでいるチーム『アトラス』のリーダーよ」
ほうほう、エルナさんですか。それにアトラスですか。
「じゃ次は俺だな。俺の名前は『シルヴァ』アトラスのサブリーダーをやっているぜ」
ふむふむ、右の筋骨隆々のハツラツお兄さんはシルヴァさんね。身長高いなぁ。
「・・・『ナミア』よ」
短っ。なんかさっきからこの人にすごく睨まれている気がするんだけど。僕前世とかで何かしちゃいましたかね?
「ナミアっ!失礼よ」
あっエルナさんがちょっと怒り気味になっちゃった。
「・・・ごめんなさい」
なんか僕に謝っているんじゃなくてエルナさんに謝っている謝り方な気がするんだけど。そしてお前のせいで怒られた風な目で見てくるナミアさん。これ悪化してない?
「ごめんなさいね。ナミアは気が難しくて」
エルナさんが謝ってきちゃった。うーん、なんか違うんだけど。
「気にしないでください。自分も疑われる立場であることは承知しているので」
あの睨み目は、僕のことを疑っている目だということにしておこう。多分色々試乗混ざってるだろうけど。
「私もあなたの名前を聞きたいのだけど・・・その・・・記憶がないのよね?」
エルナさんが申し訳なさげに訪ねてくるが、
「そうですね。お返しできる言葉も少なくて申し訳ない」
正直こっちも申し訳なさがすごくこみ上げてくる。
「さっきから思ってたんだけどよ。お前見た目のわりに大人っぽい喋り方するんだな」
シルヴァさんが唐突に質問してきた。
「そう・・・ですかね?僕としては普通に喋っているつもりなんですけど」
「確かにそうね。ショ・・・男の子にしては、丁寧に感じられるわよ」
「もしかすると、記憶を無くす前もこのような喋り方だったのかもしれませんね」
「口調は慣れが出やすいですからね・・・シルヴァなんてこの有様ですし」
「俺は俺だからな!がっはっはっは!」
と言って豪快に笑うシルヴァさん。こういうのが男らしいのかな?
「そういえば、今朝隣のダメ先生から聞いたのですが、何でも、あなた方が僕をダンジョンからこちらに連れてこられたとか」
「ダメ先生って」
なんか妙にダメージを受けている人は放っておく。
「ええ、その通りよ」
どうやら本当のようであった。
「ええと、ありがとうございます?」
少しぎこちないお礼になってしまった。
「すみません、どうにもモンスターの中から出てきたとかマナシード太郎なんて言われて僕も頭がこんがらがっていて、実感が湧かないもので」
「マナシード太郎?」
「あ!いえ、何でもないです」
口が滑った。シルヴァさんもよく聞いてらっしゃる。
「いいえ、礼には及ばないわ。冒険家として、助けるべき命を助けただけよ」
「よくいうぜ、見た目が好みだったからとか助けたお礼にお近づきにーとか思ってグフっ!?」
シルヴァさんが何か言ってるなーと思ったら、エルメさんの拳がシルヴァさんの鳩尾に突きを放っていた。
「こほん、シルヴァが教育に悪影響なことを考えていたので制裁させていただきました」
「な、なるほど」
この話題は触れないほうがいいな。戸締りしとこ。
「そ、そういえばエルナさんさっき冒険家としてって言っていましたけどシルヴァさんとナミアさんも冒険家なんですか?」
「そうだぜ。これでも有名な方の冒険家チームなんだぜ。アトラスはよ!」
「私たちは3人とも姉弟妹で、一緒に生活しているのよ」
「へえ〜すごいですね!かっこいいです!」
2人ともすごくいい顔をしている。よほどアトラスと自分たちに誇りを持っているんだな。
「最近やっと、独り立ちもできたことだしな!」
ん?独り立ち?
「シルヴァ・・・それは」
「シヴァ兄!!!!!!!!!!それはだめ!!!!!!!!」
耳をつんざくような大声を解き放ったのは・・・
「ナ、ナミア?俺何も言ってないんだけど?」
「どうして部外者のコイツにあの事喋ろうとしてるの!?兄弟の秘密でしょ!?」
「だ、だから言ってないって」
「いや!!止めてなかったら絶対言ってた!!」
どうしましょう、空気が非常に悪くなりました。
ルスト・マノリア 橘 菜雪 @banacchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ルスト・マノリアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます