第3話
「〜という感じです。これで説明は以上なんだけど、何か質問あるかな?」
琴美はハッと我に返る。
眼前には、前髪の長さを気にするようにいじりながら、ぱちくりと大きな瞳がこちらを覗いている。
実はお昼休みの回想に気を取られていて、話半分だったのだが急いで首を横に振った。
そう、〜という感じで、先輩は女の方でした!!
……うん、だからこれはガチ恋ではない、はず。
だって私も女で、先輩も女だよ?
しかもめちゃくちゃ可愛くて。可愛い。でも声が時々格好いいような、可愛いような……。
——そう、声を聞く度に、ドキドキする……。
「わからないことがあったら何でも聞いてね。一応、私部長だし!」
晶はまたニコッと笑って、説明に使用したマニュアル類の整理を始めた。
その笑顔に琴美はまたドキッとさせられる。いかんいかん、と手伝おうと手を伸ばすと指先同士がそっと触れた。
「あ、すみませ……」
「? ううん、大丈夫だよ、ありがと。
ねぇねぇ、篠原さんのこと、下の名前で呼んでもいいかな?」
——ドキッ。
「ぇあ、はいっ。琴美って呼んでください」
「ありがとう。琴美ちゃん、改めてよろしくね」
少し照れたような晶の表情。
その瞬間、琴美は自身の顔が熱くなるのを感じた。
しかし、すぐさまそれを悟られないよう、宜しくお願いします!と慌てて頭を下げた。
もしかして。
声だけじゃなく、晶先輩のことを、好きになってしまった……?
「あ、もうこんな時間。琴美ちゃん、こっち来て、初仕事だよ。最終下校のチャイムが鳴る前に、校内放送するの」
晶が琴美の手を引き、後ろで見てて、と耳打ちする。
琴美は晶の声で、心が、頭がいっぱいになっていく。
——待って待って、晶先輩は女の人だよ……!?
そりゃ性別は気にしてなかった、けども……。
テキパキと機材の調整を済ませ、適度な緊張感の中で下校の案内を行う晶の後ろ姿は、凛として格好良かった。
放送の時は肩までの髪を後ろでひとつに結んでいたが、放送を終えると結んでいた髪を解き、晶は琴美の方へと振り返った。
同時に下校のチャイムが校内に鳴り響く。
晶は一瞬驚いたような表情をして「タイミングぴったり♪」とVサインし、太陽のような笑顔を見せた。
——どうしよう、""先輩に""ガチ恋、してしまった……。
琴美はというと、かすかに広がるシャンプーの香りと、恋心に気付いてしまったこの特大の心臓の鼓動が、今にもチャイムをかき消し、彼女に届いてしまうのではないか、と気が気でなかった。
ガチ恋チャイム えりnぎ @ataru27
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