ガチ恋チャイム
えりnぎ
第1話
「私、佐々木 晶。あなたが篠原さん? 」
あぁ、お昼の校内放送で聞いていた大好きな声だ。なんて心地の良いトーン。
しかし、声の主は想像していたよりもずっと背丈が小さく、幼い顔立ちで、もしかしたら同学年、あるいは年下なのでは、と思うほど可愛らしかった。
◇
ここは東雲学園中等部・本校舎3階にある放送室。
放課後のチャイムが鳴ったばかりだが、放送室は3階の隅の方にあるため人の往来は既にそれほど多くなく、静かな場所だ。
「初めまして、篠原 琴美です。…あ、これ、入部届です!」
琴美は抱えていた鞄から用紙を取り出し、晶に手渡した。
晶は、ありがとう、どうぞ座って。と声をかけながら向かいの席に座り、記載内容に漏れがないか行を順番に指でなぞっている。
琴美はその様子を少し緊張しながら見ていた。
華奢な手首に細い指、短めに綺麗に整えられた爪先。肩までの長さの栗色のセミロング、前髪は少し短めに切られていて幼い顔立ちによく似合っている。そこから少し視線を下げると伏している目元……——まつ毛、長いな……。
「2年3組ね……ってことは、橋下先生のクラスかな。うちの顧問。
それにしても、今頃入部ってなんだか珍しいね?」
質問の内容もその通りだったが、それよりも突然にぱっちりとした大きな瞳と視線が合ってしまったことで、琴美はたじろぎながら答える。
「あっ、はい!私帰宅部だったんですけど、いつもお昼に放送聞いてて……。友達に、その、色々……話したら、やってみたら?ってなって」
友達との会話を割愛すべく、「色々」という表現でなんとか場を濁す。
たしかに中等部2年になってから部活に入ることは割と珍しい。東雲学園では部活は絶対に入部する必要はなく、帰宅部も認められているからだ。
琴美は1年生の頃から特にやりたいこともなく帰宅部だった。
また、友人の都子——1年生の頃から仲が良い——も「部活は面倒だし、他校の恋人と会う時間も確保しておきたい」と言って帰宅部を選択していたことも理由として大きい。
「へ〜!ありがとう、嬉しい!これからよろしくね、篠原さん」
晶は琴美のしどろもどろとした様子をそれほど気に留めず、文字通り屈託のない表情で笑った。
本当に心の底から嬉しそうだ。——何故ならこの学園では放送部はかなりマイナーな部活のため、部員数は最小数の3人(それも3年生)しか居らず、常に部員募集していたから、なのだが。
今日も今日とて、他の2名の部員は委員会やら用事で外している。
そのことを知る由もない琴美は、晶が部活動マニュアルをもとに今後の活動内容について一生懸命説明している間、先程の晶の笑顔を頭の隅を過ぎる。
その度にうるさいくらいに起こる胸の高鳴りは何だ、と必死に抑えながら、都子との会話を思い出していた。
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