第2話


 2年生に進級してから2ヶ月が経つ頃、クラス替え後のクラス仲も徐々に馴染んできていた。

 給食は男女半々の6人組、計6つの班になるよう机と机をくっつけて食べることになっていて、琴美と都子は机が前後ろだったため、同じ班で横に並んで食べている。


 ガヤガヤと賑わう教室内に、お昼の放送のチャイムが鳴った。


 お昼の校内放送は、放送部が週3日、お昼休み中の約15分間、曜日で担当者を決めて放送しているらしい。

内容は年間・月間の行事や、教員から生徒たちへシェアしておきたいようなトピック(雑談のようであり、大したことではない)、あるいはラジオ形式で色々話したり、曲のリクエストを募集して流すこともあり、割と自由度が高いようだった。


 だが、お昼休みの15分という短い時間かつ、重要度の高い内容でもないため、多分どこの教室内においても、最近起きた面白ハプニングの話や、週末の予定を立てる会話をわざわざやめたりはしないだろう。


 しかし、琴美にとっては毎週月曜・金曜の""この時間""が、学校生活の中で指折り数えるほどには大好きな時間だったのだ。



「は〜やっぱりこの人の声、ちょっとハスキーだけど、話の面白さもあってパッと明るくもなるような、なんかすごく耳に残る…なんていうか、好きな声なんだよね〜」


 琴美は、給食のチキンステーキに備え付けられたブロッコリーを口に運びながら、都子に話しかける。


「そっか今日金曜かぁ。

 たしか佐々木先輩、だよね。結構特徴的な声だけど、男子かな?女子かな?」


「うーん、どっちなんだろ?

 2年になってからは毎週月・金でこの声を聞いてる…ということはわかるけど、性別はわからない。

 てか曜日によって違う時ない?」


「性別が曜日によって違うってどういうこと?大丈夫そ?

 …ちなみに杉崎に聞いたんだけど、名前は晶っていうらしい。ね、杉崎!」


 杉崎と呼ばれた、琴美の正面に座っている男子が「ん?あぁ、そうだよ。家が近所なんだよね」と適当に返事をしたあと、すぐに最近起きた面白ハプニングの話を続けるべく横を向いた。

 興奮がちに話していて声が大きいので先ほどからちょこちょこ聞こえてくるのだが、話が要所要所で盛られている気がするのだが…まぁそんなことはどうだっていい。


「晶……さん、っていうんだ。

 うーん、でも性別関係なく、この声めっちゃ好き、、、。癒される」


 一体、どんな人なんだろう。

 そう口にすることはなんとなく憚られたので心の内に留めておく。


 いつも放送の最後に、月曜日は「月曜から佐々木がお送りしました」、金曜日は「金曜まで佐々木がお送りしました」という少し不思議な文言だけを記憶していて、性別なんて気にしていなかったけど。

 名前が晶と聞いて俄然気になってきた。だってなんか格好いい!


「はは〜ん、こりゃガチ恋か?

 そんなに気になるなら放送部入ってみれば?たしか担任の高橋先生が顧問だったはずだし、すぐ入れそうじゃん」


「えーーーーっ!?いやいや、え?」


 えっ 今なんて言った?ガチ恋!?


「いいじゃんいいじゃん!琴美がそんな風に言うの、珍しいし。帰宅部で暇でしょ。てかすでにその反応……本当はもう声だけで""ガチ恋""してるので……?」


「あ、あぁ〜……まぁ声は!声""には""ガチ恋かな?声だけね?まぁどんな人かも……気にはなるけど」

 ……ここまで言って気が付いた。気にはなるけど。はい。気になってます。はい。そうです。


 「でもそれは……多分そういうの、じゃなくて。ってかそんな理由で入部するって……不純すぎない!?」


「そう?いいじゃん、応援してるよ。

 顔も性別もわからない""相手""にガチ恋とは、ね。ま、スパチャしなくても認知もらえるじゃん♪」


 都子は不適な笑みを浮かべながら、ご馳走様〜と手を合わせ、食べ終わった食器を片付けるため、さっさとおぼんを持って行ってしまった。


 私は食べ損ねてとうに冷えてしまった野菜スープを飲み干しながら(別にガチ恋とかじゃないし——どんな人かが気になるだけだし……——)と、入部を決意したのだった。

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