15 現行犯逮捕

 俺の叫び声と共にクローゼットのドアが開き、お爺が飛び出してくる。突然の登場におばさんは声を上げるが、お爺は華麗なる手つきでおばさんの腕を後ろ手に捕まえた。


「失礼します」

「ちょ、ちょっと何なのッ!? 誰かーっ! 誰か―っ!」


 おばさんは大声で騒ぎ、すぐさま城を守る近衛騎士と陛下、そして父様もその場に駆けつけた。


 ……よーし、役者は全員揃ったな。


「誰か、この爺さんを捕まえて頂戴!」

「すみませんが、あまり手荒な事はしたくないので少々大人しくしてもらえますかな?」


 お爺はいつも通りのトーンで話す。だが今日は妙にその声が怖い。


 ……うう、ちびっちゃいそう。やっぱり今後ともお爺には逆らわないでおこう。


 俺は心の中で強く思う。だが、困惑顔の陛下が一番に声を上げた。


「エヴァンス、これはどういうことだ?!」


 何も知らず父様に連れられてきたであろう陛下は尋ねた。


「陛下、詳しい事はキトリーにお聞きください」

「キトリーに?」


 父様に言われた陛下は俺を見て、そして同じく何が起こっているのかわからないジェレミーは不思議そうな顔で俺を見た。


「キトリー、一体どういうことなの?」

「今からみんなに説明する。その前にちょっと待って」


 俺はそう言うと椅子から下り、とことこっとお爺に捕まったおばさんの元へと歩く。


「な、何よ!?」

「ちょぉっと失礼しますよー」


 俺は一言断りを入れるが遠慮なしにおばさんのドレスのポケットに手を突っ込んだ。


「ちょっ、やだ! 止めて! 止めなさいッ!!」


 おばさんはバタバタと暴れるがお爺はしっかりと捕まえ、俺はスカートのポケットに入っていた小瓶を手に取る。


「さ、これは何かな?」


 俺がおばさんに尋ねると顔を青ざめさせた。


「そ、それはっ! べ、別に何でもないわ!」


 ……この期に及んでまだ否定するつもりなのか。やれやれ。


 おばさんの解答に俺は小さくため息を吐き、そしてその小瓶を陛下の元へと持って行く。


「陛下、こちらを」

「これは一体? なんだと言うんだ?」


 陛下は怪訝な顔をしながらも俺が差し出した小瓶を受け取った。中には水色の液体が入っている。そしてそれが何なのか俺は知っていた。


「それは毒です」


 俺の告白に陛下は勿論、そこにいた騎士やジェレミーさえ驚いた。


「毒!? どうして毒など」

「それがジェレミーが時折具合を悪くする原因です。ミス・ラナーはジェレミーに定期的に毒を飲ませていたんです」

「何だとッ?!」


 陛下は驚きから怒りを瞳に宿し、おばさんを見つめた。だがおばさんは罰悪そうな顔をし、視線を逸らす。


「キトリーよ、それは本当の事なのか? しかし今まで医者に見せてきたが毒の反応など」

「体に残らないよう少しずつ摂取させていたのでしょう。恐らく半年前から。調べたところ、ジェレミーがよく体調を崩すようになったのはそれぐらいからのようですから」

「半年前からずっとだとッ?!」


 陛下は信じられないと言う顔をしたが俺はハッキリと告げる。


「そうです。彼女はずっとジェレミーに毒を飲ませていた。その小瓶に入った毒をね。……大方、毒を使ってジェレミーを亡き者にした後、陛下にすり寄って王妃の座に収まろうとしたのでしょう」

「ジェレミーを亡き者に?」


 陛下は怒りと信じられない思いから声を震わせた。そしてじっと小瓶に入った液体を見つめる。だがおばさんは嘘を吐いた。


「へ、陛下! そんな話、でたらめですわ! 私が毒なんて!」


 自身のスカートのポケットから出てきたのにおばさんは認めようとしなかった。なので、俺の心に火が点く。


「えぇい! この期に及んで、まだ己が非を認めぬ気か! あまつさえ幼子に毒を盛り、亡き者にしようとした鬼のような所業。その上、嘘を吐くとはなんという恥知らず!」


 俺が腰に手を当てて言うと、おばさんは肩をびくりと震わせつつ反論した。


「な、なんなの!? だ、大体私が飲ませたっていう証拠がどこにあるのよ!? 証拠もないのに濡れ衣だわ!」


 おばさんはそれでも食い下がり、俺は小さく息を吐いてレノに視線を向ける。


「証拠ならある。レノ」

「はい、こちらに」


 そう言うとレノは自分が使ったティーカップを持ってきた。そこにはまだ三分の一、紅茶が残っている。


「これが証拠だ。この紅茶を調べれば毒が検出されるだろう。なぜなら貴方が使用人に呼ばれている間、俺がジェレミーとレノのティーカップを入れ替えたからな」


 俺が告げるとおばさんは目を見開いた。


「な、そんな事! ……じゃ、どうしてその子は平気な顔をしてるのよ?! 毒が入っていたなら具合が悪くなるものでしょ!?」

「あの毒は遅効性のものだ、症状はすぐに出ない。それにレノは」

「私は蛇獣人なので、毒には耐性があるんです」


 レノは合いの手を打つように答え、にこりと笑った。


「と言う事だ。それにクローゼットに隠れて見ていたお爺が証人だ」

「しっかりと見させていただきました」


 お爺が答えるとおばさんは奥歯をギリと噛みしめた。


「こ、こんなのおかしいわ! 陛下、この子達がグルになってわたくしを貶めようとしているのですわ!」


 証拠も証人も揃っていると言うのに、まだ罪を認めないおばさん。


 しかし、そこへ待ち人がやってきた。

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