48、【学園編完結】 付いていっていいの?



 マナ・グランドはカイトに抱きついて暫く泣き続けると、そのまま意識を手放していた。

 

 ───これは‥‥‥寝ちゃったのかな?

 

 気持ちよさそうな寝息が彼の耳元で聞こえる。


 カイトは安堵のため息を漏らし、マナ・グランドの頭を優しく撫でると、周囲を見渡した。



「‥‥‥さて」

 

 

「貴様、何者だ!」


 カイトは話しかけてきた、豪華な鎧を身に纏うサンブラック帝国の中年男性に視線を向ける。


 ───コイツがここらで1番偉い奴か。


 今は敵陣の真っ只中。

 しかも敵国の中心地。

 先程の魔法で周りに居た兵士は吹き飛ばしたが、いつの間にかまた凄い数の兵士に囲まれている。 


「今はお前らと戦う気はない。道を開けろ」


 コチラの世界に戻ってきてから、兎にも角にもマナ・グランドの元に駆けつけた彼には、この状況がイマイチ掴めていなかった。


 ───マナは、なんでこんな所まで一人で攻め込んできてたんだろうか‥‥‥。


 状況がまるでわからない今、ここであまり大暴れすのは最善ではないと考え、自分の腕の中で眠るマナ・グランドの治療を最優先と決める。

 返り血で真っ赤に染まった鎧を着る彼女を、これ以上見ていたくないというのも理由の一つだった。

 

「周りが見えないのか?! マナ・グランドを此方に引き渡せ!」


「‥‥‥渡すわけないだろ、アホ」


 確かに敵の兵士に囲まれてはいるが、半年ぶりに会った腕の中で眠る美女を渡すはずがない。


 ───それにしてもだ‥‥‥。


 魔法はどんな大勢からでも、どこにでも出せるのが便利だが、その反面、誰が使用したのか全くわからないモノでもあった。

 先程、彼が使った魔法の突風も、自然現象か何かと勘違いされている為、まるで威嚇になっていない。


「これ以上、サンブラック帝国を愚弄すると許さんぞ、覚悟しろ!」


「今は忙しいから見逃してやるって言ってんだ。お望みなら今度ゆっくり遊んで───」


「かかれ!」




『ヒュルルルシュル』




 ドォォオオーーンッ!



 迫り来る兵士の槍が届くより早く、彼が創り出したのは灼熱の大きな炎。

 手から撃ち出されたソレは、サンブラック帝国の城門と城壁を削りとって空の彼方へと消えた。


「‥‥‥城壁が‥‥‥」


「おいお前ら。俺はマナを傷付けたお前らに凄くイライラしてる。これ以上邪魔するなら、そっちこそ覚悟できてんだろうな? 国ごと叩き潰すぞ」


「‥‥‥道を開けろ」



 

 その後、快く道を開けてくれた兵士達の脇を通り、マナ・グランドを抱きかかえた彼はその場を後にするのだった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 森の中。

 俺は焚き火の横に用意した野宿用の寝床に転がり、隣で眠る美女をじっと見ている。


 ───マナが起きない‥‥‥。


 傷は魔法で治療した。

 顔を近づけると、ちゃんと規則正しい寝息も聞こえる。

 何より、にこやかな顔で寝ているので大丈夫だとは思うのだが‥‥‥。


 やっぱり、あんまり寝れてなかったのかな‥‥‥。

 


 

「あっ。おはよう‥‥‥‥‥ございます」


 頬を優しく撫でていると、急にマナの目がパチリと開き俺を睨みつけていた。

 その表情は冷たい。


「カイト?」


「あ、はい。カイト‥‥‥です」


 ‥‥‥なんか凄い怒ってる?

 もしかして、一緒に寝たらまずかったとか?

 いや、抱きついたまま寝息をたてだしたのはマナの方だし。

 半年もほっといて、今更彼氏ヅラすんなとか言われたり‥‥‥。



「‥‥‥夢じゃなかったぁ‥‥‥」


 俺の胸に顔を埋めてまた泣き出したマナ。

 必死にしがみついてくるその姿を見て、俺もマナを強く抱きしめるのだった。


 ───本当に無事で良かった。

 







「‥‥‥とは言え、少し離れようか」


「やだ」


 未だ俺の膝の上に座り抱きついているマナ。


「‥‥‥これじゃ、何も出来ないぞ?」


「駄目よ。私はもうカイトから絶対に離れないって決めたの」


「はいはい」


「ねえ‥‥‥なんでこんなに背が伸びてんの?」


 俺の頭をパシパシと叩くマナ。


「さあ、成長期かな?」


「たくましくなって、とてもよろしい」


 そう、俺の身長はこの半年で驚くほど伸び、マナと同じくらいになっていた。

 でも、コレはおそらく成長期なんかじゃなく、俺が半年間滞在していた場所に理由があると思う。


 ───精霊界。


 すぐに帰って来なかったのは、なにも遊んでたわけじゃない。

 帰りたくても帰れなかったんだ。


 コチラの情報が一切入ってこない半年という期間は本当に長く感じ、そして辛かった‥‥‥。



「マナ、このままで構わないから、俺がいなくなってからの事を教えてくれないか?」


「うん。でも、聞くとツラい事とかあるかも‥‥‥」


「ある程度覚悟は出来てる」









「そうか‥‥‥サンス様が‥‥‥」


 首謀者であるアルフレド様は投獄され、血判状に名前を署名していた人間は、やはり粛清の対象になったようだ。

 上手く他国に亡命したりして、逃げた人間が多いようだが、サンス様はモスグリーン王国を離れる気がなかったようで、潔く処刑されたそうだ‥‥‥。

 

「でも、カイトのせいじゃないよ。皆んな血判状に名前を書いた時点で、覚悟はしてたはずなんだし」


「‥‥‥大丈夫、俺は全て受け止める」


「だから、カイトは何も悪くないってば」


 耳元で聞こえるマナの声は本当にありがたかった。


 でも、俺の失敗のせいで亡くなった人がいるのは事実。

 俺は、その人達の分まで戦う為に帰ってきたんだ。


 ───次は必ず成し遂げてやる‥‥‥。





「ウェンディ先輩はどうなった?」


「そうそう、ウェンディさんが居なかったら、もっと沢山の人が殺されてたと思う‥‥‥。あの人、アルフレド様が投獄されたって情報を何処かから手に入れて、血判状に名前を書いてた人に逃げるように言って回ったらしいのよ」


「流石だな‥‥‥」


 そういえば俺がブルターヌ連合国に向かう前の日に、血判状を見せた記憶はある。

 しかし、あの人名前全部覚えてたのかよ‥‥。


「今はどこにいるのかはわからないけど、国を出る時、私にも一緒に逃げようって声をかけに来てくれたよ」


「なんでその時、一緒に逃げなかったんだよ‥‥‥」


「だって、カイトを殺したサンブラック帝国に復讐したかったし、おじさまがシャーロットに捕まってるんだもん‥‥‥」


「なあ、ちょっといくつかわかんないだけど‥‥‥まず父上はなんで逃げなかったんだ?」


「おじさまは、サンス様と一緒に死ぬ覚悟だったみたいよ‥‥‥」


 ‥‥‥父上。


「父上が殺されずに捕まってるのは、マナに対する人質のためなんだよな?」


「うん、婚約させられちゃった‥‥‥」


「‥‥‥婚約」


「あ、安心してね。まだ指一本触れさせてないよ」


「そうか‥‥‥良かった」


「そんな事より、カイトはなんでおじさまが人質になってるって知ってるの? 他の事は全然知らないのに」


「クソバカ王子が自分で言ってた。あ、今は王になったんだっけ?」


「‥‥‥いつ聞いたの?」


「殺されかけた時。‥‥‥あの、それなんだけど、マナは俺を襲ったのがサンブラック帝国って言ってるけど、誰に聞いたんだ?」


「シャーロットに‥‥‥」


「‥‥‥なるほど」


「ねえ‥‥‥もしかして‥‥‥」


「あまり深く考えない方がいいぞ」


 マナの顔が氷のような表情になってる‥‥‥。


「カイトを殺したのはアイツなの?」


 あの‥‥‥俺はまだ生きてますけど?


「まあ、そうだな」


「そう」


 俺の言葉を聞いてマナは立ち上がった。

 その瞳に迷いはない。


 ───‥‥‥いかんな。


「よいしょっと」


「‥‥‥んにゃっ」


 立ち上がった所を不意打ちで、強引にもう一度膝の上に座らせたため、変な声を出すマナ。


「マナ、もうそんな顔すんなって。ここからは俺に任せろ」


「‥‥‥だって」


 マナは悔しそうに下を向いていた。

 騙されて婚約までさせられ、死ぬ気で敵国に攻め込んできたんだもんな‥‥‥そりゃ、悔しいよな‥‥‥。


「よし。じゃあ行くか!」


「行くってどこへ?」


「どこって‥‥‥モスグリーン王国をぶっ潰しに」


「‥‥‥え?」


「マナもアイツを倒したいんだろ?」


「うん。でも‥‥‥もう、カイトが危険な目にあうのは‥‥‥」



『シュシュルルル』



「カッコいい!」


 俺は焚き火の炎を操って、想像上の生き物であるドラゴンを創って空中を漂わせた。


「見ろマナ。俺が使える魔法はもう風だけじゃない。この世界をつかさどる108人の全ての精霊と契約を終えてる。今の俺は超絶に強い」


「‥‥‥もしかして、私の怪我が治ってるのもカイトの魔法のおかげなの?」


「その通り」


 全ての精霊と契約した俺は、イメージ出来れば、わりとどんな現象でも起こせるようになっている。

 そして半年という長い期間精霊界にいた事で、精霊達とかなり仲良くなり、詠唱すらほとんど必要なくなり力も使い放題だ。


「サンブラック帝国から私を助けた時、あのいっぱいいた兵士達もまさか魔法で全部倒しちゃったりとか?!」


「‥‥‥いや、流石に状況がよくわからなかったから、城門を吹き飛ばして黙らせた」


「私は城門迄しか辿り着けなかったのに‥‥‥なんか、凄すぎて泣けてきた」

 

 親心ってやつかな?

 いよいよ過保護を卒業出来たかもしれない。


「今の俺は1人でも、ある程度戦える自信がある」


「‥‥‥そっか。カイトは本当に凄いな」



 

 

 早々に身支度を済ませ、モスグリーン王国に向かう為、歩き出したところでふと気付く。

 マナが立ち止まってる。


「どうした?」


「カイトは強くなったし‥‥‥私は頭も悪いし、邪魔かもしれない」


「なんだそれ?」


「私はもう必要ないのかなって‥‥‥」


 なるほど。

 さっきからなんか暗いなと思ってたが、そういうことか。


「マナが必要ないって俺が一言でも言ったか?」


「1人でも戦えるってさっき‥‥‥」


「あれは安心させるために言ったんであって‥‥‥いや、でもマナに無茶させたくないから、1人で戦えるなら出来るだけそうするつもりだけど‥‥‥」


「ほら、私いらないじゃん‥‥‥」


 なんか話が噛み合わないな‥‥‥。


「‥‥‥なあ、俺がマナを守ったら駄目なのか?」


「‥‥‥はぅ?!」


 顔を赤くし、目を見開くマナ。


「ずっと守れるかはわからないけど‥‥‥少なくとも離れてるより、目の届く所に居てくれた方が安心だし‥‥‥」


「‥‥‥じゃあ、付いていっていいの?」


「‥‥‥一緒に来てくれないのか?」


「行く!」


 此方に走ってくるマナの顔は、笑顔で溢れていた。

 






「ねえねえ、まず何するの?」


「アルフレド様の奪還」


「がんばろうね、カイト!」


「おう」





 〜〜〜 学園編 完 〜〜〜




後書きのようなモノ。


ここまで読んで頂きありがとうございましたm(._.)m


ちょっと、ここらでこの話、一度休憩します。


評価など貰えると嬉しいです!

オラにモチベーションをわけてくれ!(笑)


9/25追記

新作書き始めちゃいました。

よければ読んで貰えると嬉しいです(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾


【転生したら乙女ゲームの奴隷だった。バッドエンドまっしぐらの『氷の女王』と呼ばれる悪役令嬢に購入されたので、彼女の生存ルート模索します。】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557816784449


またお会いできる事を願って‥‥‥Σ੧(❛□❛✿)

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【学園編完結】物理が全ての脳筋王国で頭を使って生き抜こうとしてたら、世界でただ一人の魔法使いになってた話 心太 @tokorotensama

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