やっぱり物の怪が!



 それから数日がたった。

 僕らの毎日は平和にすぎていく。


「はあっ。今日も幸せだねぇ。兄ちゃん」

「うん?」

「だって、物置に物の怪がいるかと思ったら、怖くて安心できなかったからさぁ。やっぱり、うちにはオバケも妖怪もいないんだ〜」


 僕は浮かれていた。

 嬉しいんで、鶏肉特売につられて大量に買ってきてしまったよ。今夜は唐揚げだー!


 ところがだ。いそいそと肉をあげる僕の耳に、そのとき、すさまじい雄叫びが聞こえてきた。思わず、油からあげたばかりの肉をポロリと鍋に落としてしまう。


「な、何あれ?」

「物置かな?」


 僕が機嫌いいんで、あげたてをつまみ食いしようと待ちかまえていた猛が冷静に告げる。


「本物の物の怪じゃないか? ミャーコのほかにも隠れてたんだ」

「う、ウソだ」

「調べてみよう」

「うう……」


 ヤダけど、猛が立ちあがって行ってしまうんで、僕も追わないと。一人にされたら、よけい怖いじゃないか。


 しょうがなく、ガスの火を切って、あげかけの唐揚げは皿の上に。


 ミャーコは……うん。大丈夫。縁側で寝てるな。それに、キッチンのドアはきしんでるんで、猫の力じゃあけられないだろう。


「待ってよ。猛ぅ」

「かーくん。物の怪が暴れてる」

「やなこと言うなよぉ」


 が、猛の言うとおりだ。

 物置のなかから激しい物音と、あのしわがれた声が響きわたっている。もう小屋の外に立っただけで、その音は聞こえた。


 今回は確実にミャーコじゃないことがわかってる。つ、つまり、なんてことだ。やっぱり、うちの物置には物の怪が住みついてたんだ!


「兄ちゃん。あけてよ」

「行くぞ?」

「う、うん」


 兄が鍵をあけ、そうっとドアをひらく。そのとたんだ。ものすごい獣臭が鼻をつく。しかも床のあちこちに黒い髪の毛が! ショートヘアの髪だ。


「うわー! 出たー!」


 僕の声に反応して、「ギャー!」と何かがとびだしてくる。

 あやうく、僕は卒倒するとこだったね。


「つかまえた!」

「ええー! 兄ちゃん、何してんだよ! 物の怪なんか離して。すてて。いらないよー!」


 僕は両手で目をおおった。

 でも、猛がハハハと笑いだす。


「物の怪じゃないよ。かーくん。正体はコイツだ」


 ほんとに? ほんとに物の怪じゃない?

 でも、床に髪の毛ちらばってたけど? ヤダなぁ。はいずる生首的な?


 恐怖におののきながら、僕は薄目をあけてみる。

 あっ、物の怪じゃない。猫だ。黒猫。


「猫だね」

「猫だな。すごくやせほそってる」

「何日も食べてなさげな」

「首輪つけてるぞ。どっかの飼い猫が迷いこんできたんだな」


 すると、さっきまで縁側にいたはずのミャーコが、タターッとかけてくる。そして、猛の足元に、ポトンと何かを落とした。

 唐揚げだ! いや、あげる前の生肉ね。キッチンのドア固いのに、自分であけたんだね。ミャーコ。ほんとに君は器用だよ。


「ギャアアア……」


 うわッ! ビックリした。

 なんてしわがれた声。

 黒猫ちゃんはものすごいハスキーボイス。猫っていうより、完全に物の怪。


 猛が謎解きを始める。


「つまり、いつのまにか、迷い猫がうちの物置に住みついてたんだ。ミャーコはあわれに思って、壁の穴を通って食べ物を運んでた。でもこの前、その穴をおれたちがふさいだもんだから、この猫は出ることも食べ物を探すこともできなくなった。唐揚げのいい匂いにつられて暴れだしたんだな」

「そっか。ごめんね。危うく飢え死にさせるとこだった」

「飼いぬし、探してやろう」

「うん。その前にご飯だね」


 こうして、東堂家の物の怪事件は解決した。

 ほんとにもう、オバケも物の怪もいないよね?

 ちょっとドキドキしてしまう僕だった。




 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

東堂兄弟の5分で解決録5〜物置に物の怪事件〜 涼森巳王(東堂薫) @kaoru-todo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ