物の怪の正体



 その日はとにかく、やかんだけひっつかんで、物置を封印した。

 なんならドアにお札、貼っとこうかな? 妖怪退散!

 とは言え、学校行かなきゃいけないんで、お茶をわかしたらすぐに僕は旅立ったのだった。


 物置はふだん入る必要ない場所だ。そのまま記憶も封印して、忘れてしまえばよかったんだけど。


 数日後、僕にまた試練がやってきた。兄が新しいやかんを買ってきたのだ。古いほうはまたもや物置で眠ってもらわなければいけない。


 あそこに行くのか……。

 なんで、やかん買ってきたんだ。兄ちゃん。古いやつのままでよかったのに。


 とは言え、キッチンには二つのやかんを収納するスペースはない。


 僕はしょうがなく、やかんをつかんで裏庭へかけていく。

 もうこのさい、グズグズしてると苦しみが長びくだけだ。さっさと終わらせてしまおう。


 思いきって、入口の扉をあける。やかんを置く。

 よし! ツーステップだ。

 次は最後の工程。物置を出て戸を閉める、だ。


 が、そこで僕はすくんだ。

 カリカリ、カリカリカリ。

 なんだろう? あの音は?

 イヤなふんいきがムンムンただよう。

 もう行かないと。このままいたら、きっと何かが起こる。


 僕の予感は当たった。

 とつぜん、ギャアアアッと化け物じみた声が!


「出たー!」


 またもや、僕は叫んで外へとびだす。

 猛だ。なんで猛といっしょに来なかったんだろう?

 あの頼れる兄がいないと、物の怪に取り憑かれてしまうー!


 僕は玄関戸を勢いよくあけはなつ。


「兄ちゃん!」


 今回は夕方だ。

 猛は仕事を終えて、居間でゴロゴロしてる。


「どうした? かーくん」

「に、兄ちゃん……やっぱり、物置になんかいる」

「物の怪か?」

「物の怪かもね」

「なんで?」

「なんか変な音がするんだよ。戸口の鍵もかかってたし、他に出入りできるとこなんかないのに。なかから物音がするぅ」

「ふうん?」

「ギャアアアッて叫んだんだよぉ」

「まあ、行ってみるか」


 裏庭の物置に行く僕と猛。

 戸はあけっぱなし。

 なかから、ガサゴソ音がする。


「ほら、ほらね」

「ほんとだ。なんかいるな」

「でしょ? ゴソゴソ言ってるよね」

「うーん」

「も……物の怪だよぉ」

「毛も落ちてたしな」


 僕は猛と二人でなかへ入った。

 電球を点灯しようとスイッチに指を置いたとき、とつぜん、暗闇にカッと光る二つの目が!


「出たー! 物の怪ー!」

「出たな。けど、かーくん。よく見ろよ」

「ん?」


 物の怪なんか見たくないよ?

 でも、猛がいるから、きっと僕に何かあっても物の怪は退治してくれるはず。


 兄の背中にへばりついて、巨体の影から暗がりをのぞく。

 金色に光る目玉二つー!

 でも、最初に思ったより、意外と小さいな。虎かライオンかと思ったんだけど。

 しかも、目玉の持ちぬしは、えらく可愛らしい声で鳴いた。


「ミャー」

「あ、あれ? ミャーコ?」

「みゃ〜」


 ミャーコは棚にとびのって、壁のすきまへ消えていく。なんと、あんなところに穴が。


「かーくん」

「うん」

「物の怪の正体見たり。枯れ尾花、だな」

「うん」


 ハハハと笑う兄。

 フヘヘと笑う僕。


「とりあえず壁のすきま、埋めるか」と、猛。


 よかった。今回も犯人はミャーコだったか。

 あの毛玉もミャーコのぬけ毛だな?


 僕はすっかり安心した。

 猛がベニヤ板をトンカンして壁の穴をふさぐ。

 これでもう、ミャーコも入りこめない。


 ところがだ。

 この事件はそれで終わりじゃなかったんだ……。

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