東堂兄弟の5分で解決録5〜物置に物の怪事件〜
涼森巳王(東堂薫)
うちに物の怪が?
それはある日のことだった。
いつも使ってるやかんの持ち手がこわれた。困るなぁ。麦茶の作りおきがもうないのに。
とにかく、やかんは後日買うとして、問題は今日のお茶だ。うちはペットボトルは買わない主義なんだよね。節約。節約!
「ああ、たしか、物置に古いやかんがあったような?」
今のやかんは猛が友達の結婚式の引き出物にもらってきたヤツだ。
結婚式のお祝い返しにやかんをくれるなんて、どんな友達だって思わなくもないが、まあ、兄ちゃんの友達だから、きっと変わり者なんだろう。
それまで使ってたやつは、そのとき、ポイッと物置に押しこんだ。一年か二年前のことだ。何十年も放置してるわけじゃないし、まだ使えるだろう。
てか、引き出物がこわれた夫婦の仲は大丈夫なのか?
僕は他人のいらない心配をしながら、裏庭にむかった。物置は裏庭にある。よくある感じの古い小屋。大きさとしては四畳半くらいか。
ばあちゃんが親から受けついだ骨董なんかもあるとかないとか、ないとかあるとか。
いちおう、入口の戸には鍵がかけてある。窓はない。つまり、外部に通じてるのはここだけだ。いわゆる密室状態。
まわりには、じいちゃんの植えた庭木があるんで、なんとなく薄暗い。
僕、ここ、嫌いなんだよなぁ。なんか、昼でもオバケ出そう。
すうっと深呼吸してから、鍵をあけた。
ドアをあけた瞬間、なんとなくイヤな感じを受ける。
ん? なんか変じゃない?
なんだろ?
ガサガサ音がするし……ま、ま、まさか? 僕の嫌いなものトップツーのあれか? 黒い虫? みんながアルファベットで呼ぶやつ?
僕は入口でかたまった。
でも、ずっとこのまま立ちつくしてもいられない。
恐る恐る、壁のスイッチを押す。三十ワットの電球が茶色い光をなげる。
するとそのとたん、何かがサッと動いた。やっぱりいる! アレか? あの虫か? 食べものなんて置いてないのに、なんで?
いや、違うぞ。キイーッと鳴いた。
ね、ネズミ? でも、ドアは閉まってたし、どこから入ってきたんだ?
そのとき、僕は棚と棚のあいだに、大きく丸まった変な毛だらけのものに気がついた。
「出たー! オバケー!」
*
「に、兄ちゃん! 物置に物の怪がー!」
すぐさま逃走だ。
母屋に帰ると、大声で兄ちゃんを呼ぶ。猛はボサボサの頭のまま、アクビしつつ自分の部屋から玄関までやってくる。
時間は朝だ。
このころ、僕はまだ学生だった。学校行く前だったわけだ。
「えっ? なんだよ? かーくん。兄ちゃん、今日休みなんだぞ?」
「休みならいいじゃん。聞いてよ」
「まあ、聞くけど」
「さっき、昔のやかん出そうとして、物置に行ってみたんだよ。そしたら、なかに変なものがいっぱいあるんだー!」
「変なものって?」
「……見ればわかるよ」
「ふうん?」
僕は猛をつれて、ふたたび裏庭の物置に行った。鍵はかけてない。怖かったから、そのまま逃げちゃった。なかへ入ると、僕はそれを指さした。
「ほらね。これ!」
「……毛だな。大量の動物の毛」
「物の怪だよ!」
「へえ?」
「物置の毛だから。ものおきのけ。もののけ」
ハハハと笑う兄。
フヘヘと笑い返す僕。
平和だなぁ。
いや、違った。そんな冗談言ってる場合じゃない!
「それはいいんだよ!」
「かーくん、自分からギャグに走ったくせに」
「つい言いたくなって……いや、いいんだよ! 問題はこの毛玉! なんだろ? これ。もしかしてこの物置、妖怪が住みついてるんじゃ?」
「うーん。妖怪だとは思わないけど、なんかの動物の毛ではあるな」
「でも、入口の鍵は閉まってたんだよ?」
猛は僕を見て笑った。ニカッとね。ニカッと。
「じゃあ、やっぱり、物の怪だ」
もう。こいつ、考える気ないな。
だけど、ほんとに何者ぉー?
怖いよ……。
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