滝壺の銀河


 頭の上のほうできらきら光っているのは、あれはお星さまではありません。

 あれは一粒ひとつぶが空気の泡で、滝にかき乱されて舞っているのです。


 お星さまが見えなくてかなしいですか。

 どんなにかなしくとも、ここがあなたの旅の終着点です。

 あの滝の上までのぼった兄弟たちは、今ごろ立派な龍となり、お星さまと同じ高さを飛んでいるでしょう。

 あなたはがんばったけれど、とてもとてもがんばったけれど

 滝のなかばから振り落とされて、滝壺へ真っ逆さまに落ちてしまった。

 どんなにかなしくとも、これがあなたの終着点です。

 がんばったけれど、とてもとても、誰よりもがんばったけれど

 あなたは滝をのぼれなかった。


 泡つぶがきらきら光っています。

 涙すら滝に押しつぶされてしまうあなたの頭上に

 生まれては消えていく泡たちが

 きらきら、きらきら、光っています。

 銀河のように。

 きらきらと。

 旅の終わりを飾っています。

 これでおわり。


 おつかれさま。


 さようなら。



テーマ:⑥旅のあと、⑩鯉のぼり

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さまよう指の標本箱 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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