怪獣対策の根本的欠陥
@HasumiChouji
怪獣対策の根本的欠陥
超一流の大学を卒業し、ある企業で技術者として働いた際に、労働組合の班長になった事が切っ掛けで野党議員となった、女だてらに工学修士号持ちの人物。
陸・海・空の自衛隊員から選抜された「怪獣対策特務隊」の前線指揮官は、自分に質問をしようとしている野党議員について、そう聞いていた。
たしかに頭は良さそうだ。
だが……所詮は現場を知らない頭でっかちでは無いのか?
彼は、まずは、そう判断した。
防衛大卒業の際に同期の中で成績がトップ10に入っていた人物だ……。
その野党の議員は、国会に証人喚問された自衛隊の戦闘服の男について、そう聞いていた。
だが……その将校に質問する事になった野党議員が受けた印象は「現場叩き上げ」だった。
果たして「叩き上げ」の人物に、この未曾有の異常事態の現場指揮を任せるのが有利と出るか、不利と出るのか……。
それは、これからの質問に彼がどう答えるかで判断するしかない……。
「現場に出る際の服装で国会に来ていただいた理由はお判りでしょうか?」
何を言っている?
そう思った彼は……その質問をマウント取りだと判断した。
「いえ……」
「部下の方々も、現場ではその服装なのでしょうか?」
「基本的にはそうですが……」
「怪獣が日本に出現するようになって1年以上、出現数は10体を超えました。対怪獣のノウハウの蓄積について、どう思われますか?」
い……いや……どうと言われても……。
「今まで出現した11体の内、逃亡後に行方不明となった2体を除いて撃破に成功しています。この成果で御判断下さい」
何も判っていない。
戦闘部隊に怪獣対策を任せる事に根本的な問題が有る。
その野党議員は、そう考えざるを得なかった。
しかし、当面は自衛隊に怪獣対策を任せるしかない。
更に……「怪獣対策特務隊」の前線指揮官が「現場叩き上げ」の「堅物」である事が不利に働いている。
自分達にとっての「当り前」が何故「当り前」なのかを考えようとしない頭の固い人物だ。
野党議員は、そう思いながら、次の質問を行なった。
「しかし、怪獣出現地帯近辺に居た一般人の避難誘導や救助の成功率については、どう思われますか?」
そう来たか……。
なるほど、これは予算削減の理由にされかねない。
だが……我々は怪獣から国を護っているのだ。
ここで負ける訳にはいかない。
「たしかに我々は人命救助や避難誘導については……巧くいっているとは言えません」
「現場の隊員の2次遭難も発生していますよね」
「はい……確かにその通りですが、現在、部下に対策案を考えさせています。それに、もしこの事を口実に『怪獣対策特務隊』の予算や人員を減額されれば、更に多くの犠牲が……」
「いえ、私が知りたいのは『人命救助や避難誘導に明らかに必要な予算が、何故、申請されていないのか?』についてです」
な……何を言っているんだ?
奴の政党は自衛隊の予算にケチを付け続けた政党だ。
だが……?
読めなかった。
現場指揮官は、相手の意図を読む事が出来なかった。
しまった……。
こいつの国会質問の様子の動画を何本か観たが……「相手が気付かぬ間に外堀を埋める」ような質問のやり方が得意だった……。
「怪獣の主な出現地域はどこですか?」
いや……明らかでは……待て……これも外堀を埋める方法か?
では……駄目だ、判らない。
答は1つだ。
その1つの答を返すしか無い。
「主として山林地域です」
その答の結果、相手がどう出るかを……現場指揮官は全く予想出来なかった。
「では、その山林地域で、その服を着て避難誘導を行なった場合、何が起きますか?」
「へっ?」
「だから、『その服が山林地域で避難誘導を受ける一般人にとって視認し易いのか?』『視認しにくいなら、新しい柄の戦闘服を開発する予算を何故申請しないのだ?』と訊いているのです」
怪獣対策の根本的欠陥 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます