第161話 ターミナルフェイズ


 


「あー‶やっと〟地上かよ」


 その重く吐き出すかのような言葉は、一般的に使われる類とは遥かに別物。

 これまでの経緯を思い返しつつ、しみじみと独り言ちるトール。


 後続には、わいわいガヤガヤ、やんややんや、クソだのハゲだの、あーだこーだ、ゾロゾロと百鬼夜行さながらの絵図。


 THE 幻浪旅団、ついに地上到達。


 水路トンネルを抜けると周囲には人気は一切無く、歴史的建造物が立ち並ぶ如何にもな廃れた街並み。空は厚い雲に僅かに色づく橙色のグラデーション。

 物寂し気な黄昏時たそがれどきを思わせる中、薄暗さと雷鳴のような幾重にも響く重音が、不穏な不気味さを演出。


「つうか、どの辺だよここは?」


 ヴォヨンヌの何処かは理解しているが、土地勘はおろか地図すらない為、位置情報が不明。


「さぁ?サウルに聞けば?……皆で、おトイレのようだけど 」

「連れションかよ…綺麗に横並びすんなっつうの」


 リディにしても知ったことかと、帝国小鬼インペリアルゴブリン一応の王子を伺い見れば、他亜人種共々、用水堀の壁沿いに背中を並べるシュールな絵面。

 その上に視点を移せば、廃墟群の屋根越しに見える、幾つもの尖塔が聳え建つ巨大建造物。荘厳ながらも仄暗く禍々しい威容を漂わせている。


『おお!あれが、話に聞くイルーニュ城でござるな!』

『何とも壮観でござりまするな兄上!早速、往訪おうほうに参りましょうぞ!』

『黒鉄、弥宵よ落ち着け。そう逸るではない』

「おまえもだよ朔夜。尻尾振り過ぎ」


『あない腐れボケ城、大したことあらへんて。行くんやったらしゃーないし、ウチも付き合うたるわハゲカス』


 ようやくの地上、全てが新鮮。どうにもこうにもテンションが高まる、冥狼ガルムの朔夜、黒鉄、弥宵。神獣ホワイトサーベルタイガーのナーヴも、つんけん乍らもイルーニュ城にガッツリ興味津々。


「何はともあれ、先ずは我々の位置及び、周辺情報の把握が必須。まぁ手っ取り早いので‶これ〟を使いますね」

「またかクロエ……」

まで、持参していたのか……」


 度々、どこからともなく多様な物を取り出すクロエ神水流少尉に、困惑するブルース大尉とラーナー大尉。取り出したのはカーキ色の何やらなケースセット。

 セット内容は、小型ディスプレイとコントローラー、約10cm程のヘリコプター型の小型機器。

 

「それは‶クロスズメバチ〟かしら?」

「あー‶PRS〟か。ちと目立つグリフォンたちを飛ばすより、手軽でいいかもな」

「ええ、その通り。超小型偵察ドローン【PD-100 Black Hornetブラックホーネット PRS】。陸軍のものですが、ポケットサイズで中々に便利ですよ」


 クロエは淡々とそう言いながら、手際よくササっとスタンバイ。

 ピューンと、軽快颯爽スクランブル発進Black Hornetクロスズメバチ


 米陸軍で分隊ごとに配備されている【PRS(Personal Reconnaissance System 個人偵察システム)】。超小型軽量かつ展開60秒以内。市街地において、速やかに目先の建物や街区の状況確認を目的としたお手軽デバイスだ。


『おとたま、クッソお腹すいたのー!』

『おとたま、ボクもボクもー!!クッソクッソー!!』

「 クソうっせ!分かったから甘噛むな!」 


 成長期真っ只中、神狼フェンリル双子のカレンとトアは、他の事など一切目もくれず、只々本能に忠実なようだ。


 そんなゆるゆるな空気の中、最もゆるい奴が鼻をほじりながら訝し気な様子。


 ムズムズムズムズムズ……


「ん?専任鼻長、どうしたんすか?」

「また、鼻ムズレーダーに反応かよ?」


「ん~~何だかあのお城よりも、もっともっと先の方で、とてもとても危ない嫌な感じがするね、怖いね……」


 ダドリーが不安気に見つめるイルーニュ城の先では、赤み掛かったもやが一面を覆い尽くし、地響きのような轟音が木霊していた。

 

 



 同刻、ヴォヨンヌ最南部にて繰り広げられる、ロドス砦防衛戦。


 そこに描かれるは、夥しい数の死骸と肉塊の山が累々と築かれ、大地は濁流滾滾だくりゅうこんこん、黒々とした肉片と血に染まる超常大戦おおいくさの煉獄絵図。

 

 その熾烈な対局も大終盤の大詰め。双方主戦力同士が砦の内外に分かれる大決戦局面。

 

身体強化フィジカルフォース!!」「攻撃強化ティターンストライク!!」

防御強化シェルシールド!!」「「鋭利強化シャープエッジ!!」

貫通強化フルメタルブリング!!」「敏捷強化アクセルレイド!!」

集中強化フォーカスビジョン!!」「全能力倍強化オールマイティ!!」


 冒険者’Sの各強化バフが付与、もしくは自らで発動し、各自能力値が急上昇。

 

 砦内に侵入し、この戦局を暗躍した隠者ハーミット‶五ツ者〟に対するは、元米海兵隊、異世界転生者の兎獣人『テッド』をリーダーとする、人種ヒューマンの『フーゴ』犬獣人『エド』豹獣人『ベルカ』のシーカーチーム&冥狼ガルム双子『月影』と『灯影』。


 いずれも敏捷型高機動ゆえ、必然的に戦いの場は狭い防壁上回廊から、最大限に能力を発揮できる広い壁下敷地内へと移動。

 常人の視覚では追えぬ速度域で地上、壁、空中を縦横無尽に駆け回り飛び交う、異次元機動戦。


 五ツ者はうねうね、うにょうにょ不定形。変幻自在なキモ回避からカッチカチの硬質防御。転じて、それらを駆使した奇妙奇天烈な攻撃。6対1の数的不利など物ともしない、五ツ者の剛柔多彩で予測不能な動きに、シーカーチームは四苦八苦。

 

 冥狼ガルム双子の月影、灯影は、影から伸びる幾つもの荊の鞭剣を振るい応戦するも、五ツ者の攻防一体、無数の触手剣と頑強なローブに阻まれる。 

 シーカーチーム共々、攻め処と回避に難儀する間に掠り傷が増えていく一方。

 強化作用が無ければ、致命に至った傷もちらほらの悪戦苦闘状況。

  

『ぬう、冥遁術に近いが別物……おそらく、あの面妖な装具が勘所かんどころでござるな』

『これは、以前ミゼーア様から聞きし、上位メタルスライム製の古代遺物でござろう』 


 月影と灯影が察するところは、防壁上から窺い見るドーレスの鑑定スキルでも捕捉され、詳細を語るに。


「軟体から超硬質化…微かに緑掛かった黒色……おそらく、あげんローブは【アダマンタイト】を捕食し進化した、幻のメタルスライム【アダマススライム】製

──幻想級ファンタジア【アダマン・レジリエンス・クローク】ったい。まさか、こげん所で伝承でのみ知られる失われた遺物ロストアーティファクトば、お目に掛かれるとは……」


 との事だ。そのレア度とスペックは、伝説級レジェンダリーを超える超逸品。

 


『ドゥフッ!』


「「「!?」」」


 これまで一切無言の五ツ者から奇妙な発声。


『ドゥフッ ドゥフッ ドゥフュフュヒュヒュォオオオオ!!』


「な?こいつ、嗤ってるのか!?」


 仮面にてその表情は見えぬも、明らかな愉悦。

 永らくぶりであろういくさたる闘争を愉しんでいるのか、耳にへばりつくような独特異様な嗤い声が不気味に響く。


 「ほう……」


 その嘲るかのような五ツ者に、何を思うか相貌を細めるテッド。


「アヘッアヘッアヘアヘアヘアヘアヘへへへへべっぶぼっ!!げほっげほっ!!おえぇぇぇ!!」


「バカヤロー!無理して妙な対抗すんなよ!」

「あんた、マジで死ぬよ!!」

「誰だよ、こいつをリーダーにしたのは!?」


 生死に関わる紙一重の最中、テッドはついついのノリで張り合い、誤嚥ごえんでえずく。全力疾走中に笑うのは、呼吸が乱れて非常に危うい。状況が状況なだけに、同チームからマジツッコミ。


『あの者は、いったい何を……?』

『構うな灯影。理解はできぬが、矜持ゆえんの何かしらでござろう』



 そして、同じく砦内に転移強襲してきた‶純銀灰六騎士ハイミスリルナイツ〟を迎え撃つは、近接戦専門の前衛チーム。

 冒険者ランクS級、王子『リュミエル』巨人血脈、タンクの『イルザ』。 

 A級虎面獣人『ガイガー』人面黒猫獣人『ネイリー』タンク兼アタッカーの人種ヒューマン、ここでネームド『サンドロ』ドワーフ族『ジャコモ』。こちらも戦線を防壁下に移し、ロドス敷地内で交戦中。

 

 この対戦はロドス陣が優勢。戦闘開始時にリュミエルの剣技を受け、純銀灰鋼ハイミスリル製の装具ながらメンテナンス不足もあり、耐久値を大幅に削られた一体の鎧が大破。

 剥き出しになった肉体部をガイガーが大爪ガントレットで切り刻み、背後からネイリーが肩車の形で、銀灰騎士の首に二刀の鎌刀ハルパーをクロス状に押し当てる。


「よっしゃ、今や!!キメろやネイリー!!」

「シャー!!」

 

 ネイリーは全体重をかけ身体を捻り、側宙高速ニ回転。着地から僅かに遅れ、ガシャリと重い金属落下音から、ゴロゴロ転がる銀灰騎士の頭部。


「にゃー!まずは一体仕留めたにゃらー!!」

「ようやった黒猫!!」

「ナイスですネイリーさん!!」

「やるねぇ!!」

「残り五体!!」


 ネイリーへ各称賛の声が上がる中、タンクのイルザとサンドロが他の騎士たちの猛攻を抑え牽制。ジャコモは、土精霊術テラスピルギアにて騎士らの足元の地面を変異させ鈍化。透かさず、リュミエルの星白銀灰鋼スタープラチナ製のブロードソード【アルメルス】から放たれる剣技にて耐久値を削り捲る。

 敏捷型のネイリーが高速移動で攪乱しながら、そこに各近接武器にて鎧を破壊。 

 騎士たちの力を半減させ、最大限の攻撃を与え、一体、また一体と確実に沈黙させていく。

 


 防壁外主戦場では、敵精鋭聖騎士隊&金灰鋼騎士アウリウムナイツと、ロドス防衛陣、精霊獣&地獄獣の人外超常戦。

 この混沌とした各戦局に、中後衛陣の魔術師ソーサラー、エルフ、ドワーフ、治癒師ヒーラー、米兵チームが各々分散して支援に回る。 

 

 そして、この戦いの最終決め所と言える特異点。

 紅蓮の巨馬に跨り、悠々と歩を進める亡者にして真魔人王ギュスターヴ。


 対する冒険者’S総リーダー、冒険者ランクはSS級紅蓮の獅子クリムゾンレオレオバルト。

 SS級竜人ドラゴニュート、狂嵐竜リョウガ。

 S級エルフ、颶風ぐふうの緑鬼メルヴィ。

 

 冒険者ではないもの、規格外のEX級存在、神狼フェンリル女王ミゼーア。

 ミゼーア親衛隊、天氷狼スコルの獣人、阿狼と吽狼。


 この錚々そうそうたる異世界メンツに加わる唯一の地球人。

 米陸軍コマンドー第75レンジャー連隊所属アキオ・イナバ中尉。


 双方総大将同士が相まみえ静止、一触即超爆発の終末局面ターミナルフェイズ

 



「王の前ぞ。ひざまずいてこうべを下げよ……」




 ───△▼△▼△▼△▼△▼△───



 クロエが使用した超小型偵察ドローン【PD-100 Black HornetブラックホーネットPRS】の実写画像はこちら↓↓↓


https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093088311071390


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モータルワールド~現代チート?海兵隊超兵士の黙示録戦線~ うがの輝成 @mobheishix3

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