第160話 五ツ者
「なんだ、こいつは…?」
倒れた
その傍には
3m近い銀灰騎士と比較すれば大分小柄に見えるが、全身を覆う黒いボロのローブと背中を丸めた低い姿勢がゆえに、大きさの程は定かではない。
そのローブ裾は
フードの中に見えるは、何かの頭骨で造られた不気味にして面妖な仮面。
大きめの両目部内には生身部分が全く見えず、漆黒の相貌。
口部は不揃いな格子状で、全体的に見れば別惑星生物を思わせる異様。
「何やねん、こいつ!?いったい何処から入りよったん!?」
「知らんにゃら!銀騎士らもいるし、兎に角ヤバイにゃら!!」
誰も感知し得ず、突如沸いたかの様に現れた、謎の存在と
虎獣人ガイガーと猫獣人ネイリーが問答喚く中、近接戦専門の待機組が一斉に武器を構え臨戦態勢。
『ミゼーア様、こ奴らの侵入経路は‶あれ〟では?』
ミゼーア親衛隊
それは、粉々になった水晶石のようだ。
「む、あの残骸は……【刹那の碑水晶】。なるほど。突然現れたのは‶転移〟によるものか」
「「「!!!!!」」」
一同騒然。ミゼーアが名言するは、使用すれば壊れる一度限りの転移アイテム。
原因は理解したもの一つ疑問が脳裏に浮かぶ。
「いつの間に設置されたものだ!?元からあれば、誰かしら気付くはずであろう?」
レオバルトの尤もな意見。ロドス入居時に敷地内は魔術も使用し、くまなく調査されたはず。粉々になった水晶石は、隠されていた訳でも無く、防壁下の目立つ場所に散らばっている。
「ふむ。先ず、銀騎士らの大弓にて防壁と聖域結界を破壊。そこから、あの黒いのが侵入し潜伏。以後の防壁への攻撃が無かったのは、この為であろう。後は我らの動向を監視しながら然るべき時を見計らい『碑水晶』にて、銀騎士どもを召喚と言った流れであろうな」
淡々と合点がいく解答を連ねるミゼーア。
「なるほど……だが、聖域結界の事まで特定されるとは、こいつは何者なのだ?」
アンデッド種侵入絶対不可の聖域結界。その打開からここまでの有効打撃。
並々ならぬ情報収集力と戦略。そして、このメンツに対して禍々しくも堂々と前に立つ超越者の在り様は果たして。
「──‶五ツ者〟 」
レオバルトの問いに、間を置いてミゼーアがポツリと呟く古き言葉。
「五ツ者…王族暗部の上位シーカー。【
地域、時代によって呼ばれが異なるゆえ、ヒュペルボリアで一般的な呼称で補足する賢者ミシェル。
「【
「まぁ、そんなところだろうなベーコン。五ツ者……武田信玄の隠密集団
『三ツの者』に通じる謂れか」
かの武田信玄が組織した隠密集団『三ツの者』。
間見: 遠方から敵を観察。
見分: 敵に接近して観察。
目付: 敵の中に紛れ込み、情報を収集。
との、三つの役割を統じての呼称。
これらを踏まえ、イナバが推察するは──。
「なるほど。『五ツ者』とはつまり、諜報、破壊、浸透戦術、謀術、暗殺を生業とした、正にの【忍者】と言えるが……」
その見てくれは、一般的な忍者とは異なるクセ強すぎな異様だが、考察も程々なところで事態が動き出す。
「マウロ!!」
クラリスが呼ぶ名は、倒れた神聖術師の男。冒険者ランクはA級。
役職は【
高耐性装衣のおかげで、辛うじて致命は避けられたものの虫の息。
「まだマウロは生きてます!直ちに回復を!」
「いけません、カイヤ!‶あれ〟が傍にいます!」
他のヒーラーはクラリスを含め三名。一旦は距離を置いたもの、一人の神聖術師の女性。ランクはB級【
マウロの回復は、敵の動向を見計らってからが最善。
そう判断に至った矢先に黒い奴が動く。その標的は──。
「狙いはクラリスか!!」
黒い奴がぬるぬると、うねる様に且つ迅速で向かった先は、ヒーラーチームの要である指揮系統のクラリス。
回復役を真っ先に潰せば、後は疲弊消耗するだけ。云わば、兵站補給路を断つ効率的な常套戦術。
「させるかぁああああ!!」
そこに、カイトシールドと
「ガスパル!」
ヒーラーであり戦士職。ランクはA級。役職は【
クラリスを守護するべく迎え撃つ。
対して、黒い奴のローブ裾が集束し硬質化。棘だらけの大金棒に変異し、豪快に薙ぎ払う。ガスパルは、咄嗟に盾で防ぐも盛大に弾き飛ばされる。
「ぐぁあああぁぁあああ!!!」
──グシャ
「「フリック!!」」
運悪く、その射線上にいたソーサラーの一人『フリック』が巻き込まれ、鋸壁とガスパルの強プレスで圧死。
同時に、倒れて虫の息であったマウロが、銀灰騎士の一体に頭部を踏み潰され、無残に息の根を絶たれた。
「「マウロ!!」」
仲間の死に嘆く間もなく、黒い奴のローブ裾が変容。大金棒形状から広がり、幾数もの
連なる鈍い刺突衝撃音。
床石が砕け、周囲に激しく飛散する中、クラリスとカイヤが消失。
「「「!!!」」」
余りにも一瞬の惨事に、言葉を失う冒険者’Sとイナバレンジャーたち。
ガスパルは辛うじて生存しているもの、身体を強打し気絶。
成すすべも無く、補給路を断たれたも同然。
敵側としては第一標的を無力化。加えて混乱状態に陥れ、先ずの強襲作戦は成功。
内心、したり顔で速やかに次なるフェイズへ移行。
──と、思いきや静止状態。黒い奴は、何故か不思議そうに首を傾げている。
「ふぅぅ……危なかったね」
「ああ、ギリギリだったよハハン」
少々離れた位置で、そう冷や冷やの想いで語るは、シーカーズの豹獣人ベルカとテッド。二人が小脇に抱えるのは、一切無傷のクラリスとカイヤ。寸での所に、超速で救出した模様。
「「「おお!!」」」
「二人は無事だったか……」
「テッドのくせにマジか!?」
「豹獣人の方もだが、消えたかと思ったら一瞬で救出までこなし、あの距離まで……」
「妙なキャラは‶兎〟も角、獣人転生は伊達ではないってことか」
能ある兎は何とやら。テッドのこれまでのアホアホキャラを払拭する高スペックに、改めて彼の評価を見直すイナバレンジャーズ。
「…あ…ありがとうございますテッドさん、ベルカさん!」
「はぁ……何とか助かりましたね……」
「まだ安心するのは早いよクラリス、カイヤ!!奴が来るよ!!」
「ヤバイヤバイ!!‶フォックス2〟!!続けて‶フォックス3〟!!ワーニング ワーニング!!」
安堵したのも
テッドが例えで喚くは、NATO加盟国戦闘機の空対空ミサイル発射時の簡潔コード。
『
語源の和名は『ヨコバイガラガラヘビ』。
『FOX3』は、アクティブレーダー誘導中距離ミサイル【AIM-120 アムラーム】や【AIM-54 フェニックス】。まぁ簡単に言えば、一度ロックオンされると回避が難しい代物である。
ドスドスドスドスドスドス!!
床石に次々と突き刺さる
放ったのはシーカーズの
対する黒い奴は、ローブの至る所からうねうねと、尖った触手槍を伸ばし二人を迎撃。それを紙一重で躱しつつ短剣で弾き、合間に苦無を投擲。キンキン多重金属音を奏でローブ触手に弾かれる。
いずれも敏捷隠密職ゆえに忍者同士の戦闘
透かさずテッドとベルカも加わり、4対1の構図。
だが、黒い奴の伸縮自在、変幻多様なローブの戦技を前に有効打も無く必死の応戦。逆に回避しきれない掠り傷が増えていく。
そこに銀灰六騎士が続き、数的有利は瞬く間に逆転。かと思われたが、周囲の冒険者’Sが黙って見過ごす訳がなく、間に割って入る。
細身ではあるが、巨人族の銀灰騎士にとっては吹けば飛ぶような小さき者たち。
騎士の一体が纏わりつく小虫を踏み潰すかの様に、
『!?』
盛大な衝撃音と共に、堅城鉄壁かの如く真向から
絶対的な膂力と武器性能を持つ銀灰騎士。自らの剣を防がれた事に、僅かながらも驚きの反応が窺える。
それは当然、彼女も巨人族の血筋。加えてイルザの大盾は、最新鋭かつメンテナンス済みで万全状態‶
「ハハッ!やけに細いねぇ、大ご先祖様方!老いぼれちまったんじゃいのかい、腰が入ってないよ!」
そして、このデカ物たちの中では、かなり小柄と言える178cmだが、王子たる所以もあって堂々優雅。左腰の鞘に収められた
「──閃煌百蓮華 」
キン──と、微かな小気味いい金属音と共に、煌びやかな無数の閃き。
『!!!!』
大音響の衝撃。イルザと対峙していた銀灰騎士が大きく怯み、ハイミスリル製の鎧の表層面が穿たれ、抉られ、削られ、細かな金属片が飛び散り、損傷に覆われていく。
ダメージの程は定かでは無いが膝をつき、明らかな動揺の様子が見える。
「中々に硬いですねぇ。最上級に当たる僕の【アルメルス】でも、やはりハイミスリル製の破壊は無理でしたか……はぁ」
リュミエルが携える
ならば自分の力不足と、少々嘆きの色を見せるリュミエル。
「なんでそこで凹むねん!大したもんやろドアホが!!」
「そうにゃら!武器がカチカチでも、使い手のメンタルがペラペラにゃら!」
虎獣人ガイガーと猫獣人ネイリーがツッコミを入れつつ参戦。更にタンク兼アタッカー戦士も加わり、待機班の近接専門職の面々が強襲部隊への迎撃態勢。
「ふむ。月影と灯影よ。うぬらも、あの五ツ者討伐の手助けに参じるがよい」
『『御意!』』
ミゼーアの
そんなロドス内が混沌とする中──。
「‶奴〟が来る」
金灰騎士たちと超獣群が苛烈闘争の中央を威風堂々、騎乗する紅蓮の巨馬の歩みを進めるギュスターヴ。
すでに身中深くを食い破られ、退路も断たれた背水の陣。
打つべき手は唯一つ。
「では、往くとするか」
往々にして斯くある然るべき時。レオバルトは、一切迷いは無く防壁外へといざ降り立つ。
「ドルゥアッハハハハハ!!まっこと、ようやくぜよ!!」
待ちに待った渇望たる闘争に意気揚々。
「ふむ。では、我も参ろうぞ」
「「主君の赴くままに」」
「私も、かの血戦場へと向かうわ。援護は任せたわよ」
「「「イエスマーム!」」」
エルフチームリーダーのメルヴィもミゼーアに付き従い、他のエルフは防壁上で火力支援にと分かれる。
各々の進路が定まった。果たしてこの先に待ち受けるは、新たな未開の地か。
はたまた断崖奈落の谷底へとまっしぐらか、唯ひたすら突き進むだけ。
「ハハッ!こうなれば、俺も往くしかないな!」
「「「中尉!!」」」
イナバ機
その頃、ヴィヨンヌの何処か、地下用水路の出口付近にて。
「あー、やっと地上かよ。つうか、どの辺だよここは?」
───△▼△▼△▼△▼△▼△───
黒い奴のイメージはこちら↓↓↓
https://kakuyomu.jp/users/mobheishix3/news/16818093086393425628
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