ミーコちゃんが解決

レイ&オディン

短編


ミーコちゃんは、小学3年生です。

ミーコちゃんは、妙子おばあちゃんとおばあちゃん猫のモモちゃんが大好きで

学校が終わると妙子おばあちゃんの家の庭にある裏口から

庭の中を覗きながら入って行くのがルーティンだった。

妙子おばあちゃんもお昼ご飯が終わると

庭が見える部屋の窓際に移動する。

座布団を敷いて座ってると、パタパタパタとミーコちゃんの足音がして、

キーって、庭の裏戸が開く音がして

そこからミーコちゃんのニッコリ笑顔が出てくるのを見るのが大好きだった。

モモちゃんは、妙子おばあちゃんの膝の上で耳だけピクピク動かしている。

妙子おばあちゃんは膝が悪いから、こんな感じでモモちゃんと一緒に、

ミーコちゃんを待っているのだった。

ただ、今年の冬は一層寒くなったので妙子おばあちゃんの膝は特に悪くなった。

とうとう年末には病院に入院してしまった。

ミーコちゃんは、妙子おばあちゃんの代わりに、毎日、モモちゃんのエサを

器に入れるために妙子おばあちゃんの家に通うことになった。

それが妙子おばあちゃんの願いだったのだ。

親族会議では、小学生に戸締りさせることが問題になったが、市役所で働く由美おばさんが

仕事が終わって、妙子おばあちゃんの家の戸締りをして

ミーコちゃんと帰る約束で、妙子おばあちゃんの願いはかなうことになった。

これは、ミーコちゃんのお母さんにも都合が良かった。

ミーコちゃんのお母さんは由美おばさんに連絡して、妙子おばあちゃんの着替えなど

必要なものを準備してもらい、それをミーコちゃんに家まで持って帰ってもらうのだ。

いつの間にか、ミーコちゃんは大活躍していた。

でも、妙子おばあちゃんは、家には帰ってこなかった。

妙子おばあちゃんが病院で亡くなった時も、

ミーコちゃんはモモちゃんのエサと水を器に入れると

いつもおばあちゃんが座っていたように庭が見える部屋で日向ぼっこしていた。

モモちゃんは、妙子おばあちゃんが入院してからは、

ミーコちゃんの膝の上に乗って、耳をピクピクさせていた。

だが、この日は違った。

ミーコちゃんは、モモちゃんが膝の上に来ないのを不思議に思って、

庭に近いいつもの場所からモモちゃんの方に向き直った。

すると、モモちゃんはスッと姿勢を正して座って、ミーコちゃんを見ていた。そして喋った。

『ミーコちゃん、今ね、妙子おばあちゃんが亡くなったよ。

もし、私の世話をミーコちゃんがしてくれるのなら、

これから私の話を聞いて欲しいの。もちろん、私の声はミーコちゃんの頭の中に聞こえてるだけで、

他の人には、ニャーニャーとしか聞こえてないから、心配しないで。

今までは、妙子おばあちゃんが私とペアを組んで、この町が平和であり続ける様に

一緒に努力してくれてたんだけど、まあ、妙子おばあちゃんも年を取り過ぎたよね。

どうだろう?ミーコちゃん、妙子おばあちゃんの代わりを引き受けてくれるかい?』

ミーコちゃんは、目をシロクロさせながらモモちゃんをただ見詰めていた。

ミーコちゃんがモモちゃんに向かって、コクっと頷いた後に、由美おばさんが

走って家に入ってきた。『ミーコちゃん、遅くなってごめんね。

妙子おばあちゃんが亡くなっちゃたの。今から、お葬式の準備とかあるけど‥‥』

ハアハア言いながら、由美おばさんが一気に話すのを聞いて、ミーコちゃんは言った。

『ミーコは、ここでお留守番する。お布団もあるし。おばあちゃんが買い置きしていた食べ物が

沢山あるから、大丈夫だよ。電気をちゃんとつけてるから。由美おばさん、お葬式に行ってね。』

由美おばさんは、ミーコちゃんをジーッと見て、コクっと頷いた。

『ミーコちゃんは、電話に出られるよね?』由美おばさんが聞いた。

『うん、大丈夫、電話も出られるよ。』

『そっか、じゃあ、お留守番を頼んでも良いかな?それとね、妙子おばあちゃんの為に

ご飯を炊かなくちゃあいけないの。でも、おばあちゃんの為だから、それをミーコちゃんは

食べられないけど、大丈夫?』

『解った。ご飯が炊けても、そのままにしておくね。』ミーコちゃんの返事を聞いて

由美おばさんはササッと炊飯のセットを済ませ、炊飯器のスイッチをONにした。

『じゃあ、たまに、ご飯が炊けたか、電話をかけるから、ミーコちゃん

電話に出て教えてね。ただ、由美おばさんか、お母さんじゃなかったら、

何も話さずに切るんだよ。』そう言うと由美おばさんは、また走って帰って行った。



妙子おばあちゃんの葬儀が終わって、おばあちゃんの家をどうするかと言う話が出た時、

『モモちゃんがいるの私が世話するから、この家をこのままにして!』とミーコちゃんは

突然、大人の話の中に入って行った。

『ミーコ、大人の話に口を挟まない。』ミーコちゃんのお母さんが怒った。

だが、由美おばさんが助けてくれた。

『ねえ、2~3年、私に貸てくれない?今の家賃分は払うからさ。家の中を片づけるのも

時間かかるよ。そうでしょ?』

『確かにそうだな。結構、おばあちゃんの物があるよなあ。おじいちゃんが亡くなって

何も片づけなかったし。由美さん、頼んでいいかい?ただ、税金とか保険代が賄えるだけの

家賃を貯めてくれてたらいいや!』そう答えたのは、ミーコちゃんのお父さんだった。

『じゃあ、3年後、また、相続を話すってことと、1週間後までに他の資産の表は手紙で

送るってことで、皆、いいかい?』お父さんの決定にみんな賛成してくれた。




ミーコちゃんの引っ越しは、ランドセルに学校で使うものをあらかた入れて、

トートバックに5日間ぐらいの旅行セットを入れれば完了だった。

翌日、早起きしたミーコちゃんは、お母さんと一緒に妙子おばあちゃんの家に荷物を置きに来た。

そして、お母さんは仕事に、ミーコちゃんは学校に出かけた。

もちろん、モモちゃんをなでて、器にエサを入れてから出かけた。

夕方になると、仕事を終えた由美おばさんが少しずつ生活に必要な荷物を運び込んだ。

1週間ほど、由美おばさんの荷物の整理をミーコちゃんは手伝っていた。

モモちゃんの仲間も、気に留めてくれていたようだ。

だから、ある晩、モモちゃんがミーコちゃんの布団までやって来てお話ししたんだ。

『ミーコちゃん、起きて。由美さんが寝たようだから、少し話を聞いて。

最近ね、ドロボウがこの家の周りを探っているのよ。』

ミーコちゃんは一気に目が覚めた。そして、少し大きな声を出してしまった。

『えっ、ドロボウ?』

『ミーコちゃん、私の声は他の人には解らないから、静かにね!

そうじゃないと、ミーコちゃん、病気にされちゃうよ。

さて、どう対策したものか・・・。』モモちゃんは、ミーコちゃんの驚いた大きな声を注意した。

『ドロボウだったら、警察を呼ばなきゃ。』ミーコちゃんは小声で言った。

『ミーコちゃん、警察になんて、説明をするつもりなの?』モモちゃんが質問した。

『ドロボウがいるから、助けて下さい!って言わなきゃ。』ミーコちゃんは胸を張って言った。

『ミーコちゃん、ドロボウは、まだ、何も取ってないんだよ。

私たちは、ドロボウの顔を知ってるけど、ミーコちゃんは、知らないだろう?

それに、ミーコちゃんが危険な目に合わない様に!

妙子おばあちゃんの大切なものを、ドロボウに荒らされない様に!

なにか考えないと。』

モモちゃんは優しく、説明をしてくれた。話してると妙子おばあちゃんがそこに居るようだった。

ミーコちゃんは、寝ずに考えた。モモちゃんも付き合ってくれた。



翌朝、ミーコちゃんは家に帰って、デジタルカメラとメガフォンをお母さんに借りた。

『そんなもの必要ないでしょう?』とお母さんに言われて、

ミーコちゃんの言い訳は、言い訳になってなかったけど、

朝でてんてこ舞いのお母さんは、ハイ!って、デジタルカメラとメガフォンを袋に入れて

ミーコちゃんに渡してくれた。

『お母さん、ありがとう。』ミーコちゃんは、お母さんに感謝した。

さあ、ミーコちゃんの大捕り物が始まるよ。

作戦メンバーは、モモちゃんの仲間の猫達10匹とミーコちゃんだ。

ある意味、妙子おばあちゃんのお隣さんのおばさんもメンバーかもしれない。

ミーコちゃんはランドセルの一番下にメガフォンとデジタルカメラを入れて

学校から急いで帰ってきた。今日は、まだ、ドロボウは侵入してなかったようだ。

『良かった!』ミーコちゃんは胸を撫でおろし、庭が良く見える松の木の陰で

メガフォンとデジタルカメラを持って隠れていた。

その横に、モモちゃんも居て、仲間の猫の情報を色々とミーコちゃんに教えてくれた。

『来るよ!』モモちゃんが言った。気の陰に隠れて、30分ほどしか経っていなかった。

ミーコちゃんは、デジタルカメラのビデオを起動させていた。

ギーと音がして、キョロキョロしながら、スーツ姿のおじさんが入ってきた。

『ミーコちゃん!撮って。』モモちゃんがひと鳴きした。

おじさんは猫の声に気にも留めずに、コブシぐらいの石を拾うとサッシ戸のガラスを割った。

カギの辺りを1~2回だけ。そして、ドロボウのおじさんは、手袋をはめた紫色の作業用の物だ。

ゆっくりと割れたサッシ戸の隙間からカギを開け、サッシを開けた。

ミーコちゃんはしっかりとビデオに記録した。

そして、ビデオの記録を保護したのをしっかり確認した。

『ミーコちゃん、叫んだら、警察署まで一気に走るよ。』とモモちゃんも録画を一緒に確認した後で、

モモちゃんが言った。

ミーコちゃんは、庭の扉の前に立って、大きく息を吸った。

『ドロボウ!ドロボウが入った。ドロボウ!』思い浮かんだ言葉を大声で叫んだ。

すると中から『誰だ、ばかやろ!』と怒鳴り声が聞こえた。

ミーコちゃんは固まった。モモちゃんがミーコちゃんを守るように前に出て来た。

『ミーコちゃんは、そのデジタルカメラを持って、警察署へ走って。』と言った。

威嚇するようなモモちゃんの鳴き声でミーコちゃんは我に返り、走り出した。

怖くて後ろを見れなかった。庭を出たら警察署まで100mぐらい。

ゼーゼー言いながら、ミーコちゃんは走った。

後、もう少しで、警察署というところでパトカーが来て、

『そんなに走っちゃ、危ないよ。』と警察官に言われた。

ミーコちゃんは、やっと、止まって、後ろを見ることができた。

ドロボウのおじさんは追いかけて来なかったようだ。

ミーコちゃんは、パトカーの警察官に

『家にドロボウが入ったんだよ。これ証拠。』そう言って、デジタルカメラのビデオを見せた。

警察官は無線で仲間を呼び、ミーコちゃんをパトカーに乗せて

妙子おばあちゃんの家に駆け付けた。

家の庭に、まだ、ドロボウがいた。

近所の猫が格闘して、ドロボウはひっかき傷だらけだったようだ。

警察官が庭に入ると、ミーコちゃんが叫んだ。

『みんな、ありがとう。警察官を呼んできたよ。もう大丈夫だよ。』

すると、庭にドロボウを取り囲むように並んでいた猫たちは、スーッとどこかに消えて行った。

モモちゃんが1匹だけ、ぐったりとして座り込んでいた。

ミーコちゃんがモモちゃんを抱き上げて、庭の隅っこに逃げると

『なんなんだよ、この家はよ!』とドロボウが警察官に連れていかれる時に、捨て台詞をはいた。

隣のおばさんが警察官がいる事を確認してから、ミーコちゃんのとこにきた。

『ミーコちゃん、大丈夫かい?怖かったね。』

ここから、このおばさんの質問攻めにあうが、

ミーコちゃんは『うん』とか、『わかんない』しか言わないから、

この町で広がった噂話は、ほとんど隣のおばさんの想像で現実とはかけ離れていた。

警察官は、女性の若い警察官を呼んでくれた。

そして、お母さんと由美おばさんが帰ってくるまで、

この家の片づけを手伝ってくれた良い人だ。

最初の警察官のはからいで、サッシの修理は警察官の知り合いの業者さんが来てくれた。

結局、工事代は請求されなかった。

どうも、金一封では足りず、警察官のおじさんが募金をしてくれたらしい。

『警察官のおじさん、ありがとう。』この話を知ってから、ミーコちゃんは

パトロール中の警察官のおじさんを見つけるたびに、そう声をかけるのだった。



あの一件から、妙子おばあちゃんの庭は猫のたまり場になった。

もちろん、1週間、協力してくれた猫にエサをあげてたから

習慣で猫が集まるようになったんだけど、

日も当たるし、生け垣があるし、人が入ってこないし、ちょうど良い場所なんだって。

『猫って、人間よりも噂話が好きなのよ。

だから、私って、この辺りの人たちの事をみ~んな知ってるわ。

私のお父さんが酔っ払って、溝に落ちたことも。

その後、お母さんからたくさん怒られていたことも。み~んな猫がおしゃべりしてたし。』

ミーコちゃんは、ないしょの話をモモちゃんに話すと、『私も知ってるよ。』と言われるのである。

でも、ドロボウを捕まえるのは、もう、懲り懲り。

だから、猫が集めてきたドロボウ情報を聞くと、

ミーコちゃんは、さりげなく、そのドロボウのそばを通って、

『この間のドロボウってさ、家に入ったとたんに捕まったんだって。この地域の警察官は

凄いね!』って、独り言を言いながら散歩するようにしてる。

たまに、話しかけてくるドロボウもいるけど、そんな時は、こう答えるんだ。

『この辺りは、猫お化けも出るんだって。おじさん知ってる?』

ミーコちゃんの頓珍漢な会話にドロボウはみんな笑いながら町を出ていくんだ。

この町が平和なのは、猫とミーコちゃんのお陰というのは

ないしょの話だよ。



                                      おわり

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ミーコちゃんが解決 レイ&オディン @reikurosaki

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