第五話

「タンポーポ、玄関前側、ほぼ全滅だそうです」

 スギナー第一部隊隊長ハビールは部下の報告に驚きを隠せなかった。これが、例の『雨』か。

「しかし、我が隊の上には降らなかったがな」

 ハビールは不思議に思う。

「いえ、それが……」

 言いにくそうに部下が口を開いた。

「タンポーポ隊のすぐ近くの隊員が、タンポーポと共に殺られました」

「何?!」

 あの雨にあたってしまうと、スギナーも殺されてしまうというのか? この、切り刻まれても生きていると言われる、我がスギナー族が。まさか……そんな力を、でかい奴らは手に入れているのか……。




「たんぽぽ、うまく枯れてくれたみたい」

「そうか」

「スギナ、来週末くらいでいいかな?」

「いいんじゃない? 任せるよ。」

 全部任されてしまった。たまには手伝ってよ〜。と、最早、甘える年ではない。

 それにしても。と思う。例え、表玄関先のたんぽぽやスギナが上手く取り除けたとしても、芝生を残したい北東側は、刈り取るより他ないだろう。実に悔しい。またのびてくるし、なんの解決にもならないどころか、どんどん広がっているのではないかと思う。


 たんぽぽには長くて深い根があって取り除けなくて、仕方なくて放置しておくと、どんどん種を飛ばす。

 一方スギナは、地下茎で増える上に土筆を作って胞子を撒き散らす。


 実際、道具置場にしている納屋の裏など、気持ち悪いほど土筆が生えていたし、その周りをたんぽぽの集団が囲んでいた。

 こんなとこまで丁寧にできないし、夫の判断に任せるけれど、土手に蔓延はびこるたんぽぽとスギナの集団は、もう見てみぬふりだ。


 やっぱ、こいつら世界征服企んでるよ。


 きっと、夫にこんな話をしたら、馬鹿馬鹿しいって笑われるんだろうなあ。「大体さあ、軍隊の構成がまず間違ってるから」とか言われるに違いない。「知らんがな」である。私は普通の主婦ですよ。そんな生活に関係ないこと詳しくないですよ。


 そんな「主婦的空想」でもしながら、やらなきゃやってれない、除草という果てしないハードワーク。時給にしたら幾らくらいになるのかしら……。……ブラックだわ。


 あーあ。北東側の除草するときには、恋愛物にしようかねえ。たんぽぽとスギナ、禁断の恋、とか、どう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蔓延る 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ