第四話

 タンポーポ第一部隊隊長ノビールは、花形スコープを早めに出すよう指示すると共に、花形スコープから早めにプロペラをつけた遺伝子を飛ばすように、全隊員に命じた。

 先日でかい奴らに抜かれたタンポーポの一部も枯れていくうちに遺伝子を作り、飛ばすよう、自動的にセットされている。それが今日明日にでも飛び立ちそうだった。


「玄関前側庭部隊が……俺らが一番遅れているのか……」

 ノビールは焦る。他の部隊との兼合いや、風向きが難しい場所でもあって、スコープを出すのが他よりも少し遅くなってしまったからだ。

 でかい奴らは、この地を一等地と考えているらしく、他の場所よりも執拗に攻撃を仕掛けてくる。おかげで昔と比べると、ここの部隊だけが少数に見える。が、精鋭隊でもある。この地をいかに守るか。それが、でかい奴らの、他の地への進出を遅らせることにもなるのだ。


「飛ばす準備が整った遺伝子から、順次飛ばして行くように!!」

「イエッサー」



「タンポーポの様子はどうだ?」

「プロペラ遺伝子を作るのを急いでいるようです」

「そうか。奴らは全部抜かれてしまえば終わりだからな」

「しかし『雨』というのが気になりますね」

「そうだな。西側にも残りのツクーシの胞子をなるべく早く飛ばすよう命じろ」

「わかりました。……こちらは、玄関前側庭部隊は、どうしますか?」

「通常通りだ。地下茎をより広範囲に伸ばすように」

「わかりました」




 私は除草剤の説明書を読む。

「へえ。直接、たんぽぽやスギナにかければいいのね。スギナは地下茎ごとやられるってことは、それにつながってる地上の奴も一緒にやっつけてくれるのかしら?」

「スギナは、もう少し生え揃ってからの方がいいみたいだぞ?」

 夫がリビングから声をかける。

「そうなの? じゃあ、たんぽぽだけにしようか、今回」

「まあ、スギナも、すぐ、だろうけどな」

「そっか。じゃあ、とりあえず散布してきます」




「隊長? 雨の音がしませんか?」 

「雨?」

 見上げると、こちらはまだ降っていない。確かに近くで降っている音がするのに。

 ノビールは、ハッと気付く、『雨』か?! これが、長老の言っていた『雨』なのか??

「隊長、どうかされましたか?」

「どうなるのか見当もつかんが……玄関前側庭部隊は……」

「えっ? 隊長??」

「これまでかもしれん……」

「どうにかしましょう?! 早くプロペラ遺伝子を! もっと地下深くへ根を伸ばしましょう!!」

「いや……もう、遺伝子を飛ばす時間もなさそうだ。根も残るかどうか……」

 雨の音が大きくなった。




「もう〜、たんぽぽだけで、こんなに生えてたら、スギナの分なくなっちゃうじゃん」

 文句を言いながら、ひたすらたんぽぽ狙いで除草剤をかけていく。

 目の端には伸びてきているスギナ。お前たちも、もう少しで終わりだからな!! と思う。




「隊長……ご、ご無事ですか……?」

「いや……もう……俺も……」

「しっかりしてください! ゴホッゴホッ……あなたがやられては…玄関前側庭部隊は……ゴフッ……」

「おいっ!! おい! 大丈夫か?! ……返事をしろ!! ゴホッゴホッ……おのれ……でかい奴らめ……お前たちの……思い通りになると……思う……な……よ……」

 …………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る