第三話
「スギナーが多大な被害を受けているらしいな」
「はい」
「ノビール隊長、うちはどうなっている?」
「先日、玄関前部隊の一部が殺られましたが、でかい奴らは、ほぼ全てにおいて、少しずつ根を残しております。復活は可能かと」
「そうか。花型スコープは増やしているか?」
「はい。順調に」
「でかい奴らは、なかなか花型スコープが出ている間は攻撃を仕掛けてこない。今のうちに遺伝子を飛ばす用意を急げ」
「はっ!」
ノビールは、大佐の命令を受け、対策を急がねばと思った。
気温がこれ以上あがる前に、遺伝子全てにプロペラをつけられるだろうか……。計画を少し前倒しにせねばならないかもしれない。気持ちが急いた。
私は、今日から、本格的に、庭の草抜きを始めた。芝は残しつつ、たんぽぽとスギナを中心に抜いていく。今回の秘密兵器は、なかなかのものだ。たんぽぽの根本を挟むようにして、グッと、テコの要領で抜いていく。ただ、たんぽぽの根は長い。全部抜けている自信はない。とりあえず、の処置にすぎないかも知れない。
いっぽうスギナの方は、なるべく地下茎を見つけて、それを一緒に抜いていく。これもブチブチ切れるので、全部は取り切れていないだろう。スギナも、少し地下茎が残っていれば、また蔓延る雑草だ。こちらも、とりあえず、の処置にすぎないのだろう。
「ノビール隊長、少しお時間よろしいですか」
部下の一人が部屋をノックした。
「入れ」
そう言うと、部下は、一人の老タンポーポを連れている。タンポーポ族の長老だ。
「これは……ご無沙汰しております。長老直々のお越しとは?」
「なに。陣中見舞ですよ。」
「何かおありですね?」
「今年は、遺伝子は、もう飛ばしましたか?」
「いえ、この辺りはまだ、準備中です。まだ花型スコープの数も少ないですし……」
「急いだほうがよさそうだ」
「と、おっしゃいますと?」
「『雨』の予感がいたしますので」
「雨? それは我々にとって喜ばしいことでは?」
「喜ばしい『雨』だといいのですが……」
長老は、そう言うと立ち上がり、
「まあ、我々は滅びはしませんがね」
と、言い残して、その場を去っていってしまった。
『雨』? ……どういうことだ?
一方、スギナーの方にも、情報は届いていた。地下茎網でタンポーポでの会話を盗聴していたハビールの部下が走り込んでくる。
「なんだ。ノックくらいしたらどうだ」
「失礼しました。タンポーポよりの情報です」
「なんだ?」
「『雨』が降るかも知れないので、遺伝子を作るのを早めるようです」
「雨? ありがたいことではないのか?」
「それが、少し様子が違うようなのです……」
部下は、盗聴内容をハビールに話した。
「そうか。では、こちらも、早く、遠くまで地下茎を伸ばすことにしよう。ツクーシの胞子も、風のある日を狙って、なるべく遠くに、だ」
「わかりました。手配します」
「頼んだぞ」
『雨』……か。そう言えば、幼い頃聞いたことがあるような気がする。父も母も殺られたが、俺は地下5階シェルターにいて助かったと聞いた。その、『雨』なのか……?
草むしりは大変な作業だった。ほぼ全部掘り返している。いつの間に、こんなにたんぽぽとスギナだらけになったのだろう? もう芝生どころではなくなっている気がする。
「ねえ、それさ、もう芝生諦めて、除草剤撒けば?」
夫がリビングの窓を開けて、そう言った。
「そうだねえ。もうこれだけ掘り返したら、一緒かぁ。」
私はホームセンターに、除草剤を買いに行った。意外と高い。うちの庭は結構広いから、少し大きめの奴を買った。何倍に薄めるとかのは面倒なので、そのままかけるやつ。スギナとか、たんぽぽには、その草にかけるだけでいいらしい。スギナの地下茎や、たんぽぽの長い根っこにも届いて、文字通り、根こそぎやっつけてくれるらしい。
「これだったら、芝生、残せるかも? スギナの地下茎考えたら無理かなぁ」
とりあえず、明日、撒くことにした。
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