第33話 焼き跡に憎悪は燃える
厩舎の火事が完全に鎮まる頃には夜明けを過ぎた時刻になっていた。
「――な、なんだこれは……」
射し込む朝陽に白く照らされた厩舎の焼け跡で、
「これは毒を盛られて――?」
厩舎の隅の馬房に焼けずに残った
また、何カ所か激しく燃えた場所には油でも撒いたような跡があり、この火事が放火であったことは明らかであった。
「全部……全部、仕組まれたことだったのか……?」
カリクマは焼け落ちた厩舎で見つかった同僚のアトコのものと思われる
周囲で小隊長たちが苛立たしげに相談している声が聴こえてくる。
「追い掛けなければ」
「しかし
カリクマはアトコの死体を見つめる。彼とアトコは同郷の出だった。
「王法破りだぞ? 追い付けなくとも追い付いて捕らえねば」
「そうだ。こんな失態で逃げられれば我ら全員刑死も免れんぞ」
アトコは優しい男であった。独身であるカリクマとは違い妻子のある身でありながら、徴兵候補となった男が病床の老母の世話を理由に免役を訴えると、自ら代理となることを申し出るような男であった。兵役は三年もある。そんな簡単に決めて良いのかと訊くと、アトコは「お前が独り寂しく三年を過ごす姿を思うと胸が痛んでな」と笑って言ったのをカリクマは覚えている。
このアトコの優しさは当然のように、深夜に
「誰が行く」
「誰でもいいから集めろ」
カリクマが見つめるアトコの死体の首には焼けてもなお残る刃物で切り裂かれた傷痕があった。アトコは火事の前に死んでいた。犯人は状況的に
「私も追手に加えて下さい」
立ち上がったカリクマはそう小隊長たちに願い出た。小隊長たちは話し合いを止めてカリクマを見ると、そのまなざしの強さに押されるように一様にうなずく。
カリクマの目に
(必ず殺す)
アトコの優しさを利用して殺した人間にそう報いることを誓ったカリクマは、小隊長たちを急き立てるように追手に加わる人員を集め始めた。
こうして編成された追手の部隊が出発して数刻後、
王の
この三人に課せられた罪状は、
「これはどういうことでしょうか?」
罪状を考えれば生死を問う方が不思議に思える大罪である。それになにより
この当然の疑問に
慈しみの雨は悲しみに降る ラーさん @rasan02783643
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