修羅は晴天を呼ぶ

 古縁流。
 草野三郎はこの剣術の免許皆伝者だ。
 では、主人公は草野三郎なのかといえば、違う。古縁流第〇代というように、主役が入れ替わる。
 古縁流が、物語の縦糸なのだ。

 市販の本を読んでいるのかと錯覚するほど巧い。素人ではなくプロの域にいる。
 歴史・時代・伝奇ジャンルの中でも安定してランキングの上位に位置していてもよいと想うのだが、まったく目立たないのは、文章がネット小説向きではないために、地の文を読みなれていない人たちには馴染めず、敬遠されてしまうのかもしれない。

 常日頃、どのような書き手に惹かれるかと訊かれたら、【PVゼロ、評価ゼロでも書き続けている人】とわたしは応えている。
 理由は、読者がいないという砂を噛むような想いをしても、書かずにはおれない強いものを内面に持っている方々だと想うからだ。
 黙々と、素晴らしい作品を書いている方が多い。
 こちらは、まさにそういう作品なのだ。


 第壱話は、草野三郎が宿縁の兄弟子、加藤兵庫之介と対峙することになった顛末が語られる。
 歴史物や剣術に馴染みがない方なら、壱話を飛ばして、『第弐話 三郎地獄廻り』や、『第伍話 至弱の弟子』から読むのがお勧めだ。
 剣術とファンタジーが融合していて、とても面白い。

 【誰も読まないが物語自体が勝手に自分を語るのだ。書かないわけにはいかない】
 著者はこんな一文を近況ノートに書いた。
「我が進むは修羅の道なり」
 これは作中の台詞だが、日の当たらぬまま素晴らしい作品を書いている作者も、歩いている道は似たようなものだろう。